インタビュー
掲載日:2023年4月18日
皆さまは「エンゼルケア」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?
エンゼルケアとは、死後に行う処置、保清、メイクなどを指しています。
今回は当社のグループのひとつ「はる訪問看護リハビリステーション」に在籍する看護師さんと共に、エンゼルケアに関するセミナーに参加させていただきました。
現在の日本の法律では、亡くなってから24時間は火葬をすることができません。
また、東京都23区には火葬場を持たない区もあるため、葬儀を行うまでに長い時で1週間以上かかることも少なくないそうです。長い時間が経ってしまうと、どうしてもご遺体の損傷が進んでしまいます。
そこでお別れの時に故人様がきれいなお姿のままでいられるよう、一番最初に行うのがエンゼルケアです。
エンゼルケアを行うのは、主に病院や介護施設、在宅ケアに携わる看護師さんや介護職の方たち。看護師さんは医療の、介護職の方は介護のプロですが、亡くなった後の処置に関しては決まったルールがないそうです。そのため、処置の方法は病院や看護師さんそれぞれで異なっています。
そこでこちらのセミナーでは、納棺師の目線から「亡くなった直後に大切にして欲しいポイント」を指導されています。
その中でも、特に見た目に大きな変化が出るのが「死斑」と「乾燥」の二つであり、特に早い段階での対策が必要になるそうです。
死斑は亡くなってから30分程度で徐々に体表に現れるアザのこと。心臓によって体中をめぐっていた血液が、重力に従い下に集まるため発生します。
この死斑は時間が経つと消えなくなってしまうそう。そのため、亡くなった後に故人様の体勢を仰向けに整えるのも大切なエンゼルケアの一つなのだとか。
続いて乾燥。
生きている時に水分が多かった部分ほど、どんどん水分が失われていくそうで、特に乾燥が激しいのは目元や口元。亡くなってからついた傷跡からも水分が失われていくのだそうです。
こうした乾燥を放っておくと、ご遺体の皮膚の色が茶色や黒に変色したり、スキンスリップと呼ばれる皮膚がはがれてしまう状態になってしまいます。
このような変化を防ぐためにも、亡くなった直後からしっかりと保湿をすることがとても大切なのだとか。保湿がきちんと出来ていると、皮膚の変色を防げるだけでなく、納棺の際のお化粧のノリもよくなるそうです。
また、個人的に驚いたのは、故人様のお顔をふっくらさせるために使われている「含み綿」についてです。
含み綿は、葬儀業界においては、生前のお元気だった頃のお顔立ちに近づけるために使用されるイメージが強いものです。
ところが医療の世界では、お亡くなりになった後、胃液をはじめとする様々な体液が、お身体の外に出てこないよう抑える目的で使用されるのだとか。
そのため、含み綿を使用する場所も、医療介護と葬儀の現場ではそれぞれ異なるのだそうです。目的が変われば、同じ道具でも使い方が全く違うのはとても驚きました。
今回教えていただいた内容は、エンゼルケアのほんの一部にすぎません。
どんな葬儀社に依頼をするのか、納棺式は行われるのか、葬儀の日時はいつになるのか、などによって、エンゼルケアの内容や対応が変わります。
生前からご家族と、依頼する葬儀社や理想的な葬儀の内容などについてきちんと話し合っておくことも大切だと改めて感じました。
悔いのないご家族とのお別れにするためにも、終活はとても重要なことなんですね。
ご遺族に対して、死後、ご遺体にどういった変化が起きるのかを事前に説明しておくことは、不安の軽減にもつながるため、グリーフケアの観点からもとても大切なことです。
実際に、自分がもし家族を在宅で看取ることになったとしたら、こうした知識を持っていることで、様々なご遺体の変化にも動揺することもないだろうと想像できます。
今回、エンゼルケアに関するセミナーへ参加させていただいたことで、エンゼルケアは故人様のお身体をなるべく生前に近いお姿に戻すだけでなく、ひいてはご遺族のグリーフケアにも繋がる大切な処置なのだと感じました。
ここからは、今回エンゼルケアセミナーをご担当いただいたディパーチャーズ・ジャパン株式会社、千々岩さんのミニインタビューです。
本日は、お時間をいただきありがとうございました。早速ですが、このようなセミナーを通して、千々岩さんが目指されていることは何ですか?また、改めてお看取りをされる看護師さんや介護職員さんにお伝えしたいことはありますか。
千々岩:エンゼルケアは医療業界や葬儀業界が身近ではない人にとっては、聞きなれない言葉ですよね。まだまだ認知度が低いので、多死社会となる今後に向けて、エンゼルケアの重要性を幅広くお伝えしたい、というのが一番の目標です。
お看取りをお手伝いされる看護師さんや、介護職の方に一番お伝えしたいのは「とにかく保湿が大切」ということですね。
きれいなお姿で故人様とお別れができれば、残されるご遺族に対するグリーフケアにも繋がります。
それから、ご遺族様ごとにエンゼルケアの正解は異なります。
ですから、是非ご遺族様と積極的にコミュニケーションをとっていただき、ご意見を聞きながらエンゼルケアを進めることを大切にしていただきたいです。
誰かが亡くなるというのは、ご遺族様にとっては非日常的な体験です。
くわえて、死後ご遺体に何が起きるか全く知らない方も多いですから、ご遺族様には死後の変化について詳細まで伝えていただきたいですね。
確かに、非日常的な体験というのはおっしゃる通りだと思います。
死後の変化を知っていれば、ご遺族様も落ち着いて対応することが出来そうですね。
では続いて、医療や介護業界の方々と交流をされる中で、葬儀や最期のお別れに対する課題は何か感じますか。
千々岩:在宅ないし、介護施設でお看取りをされた方の中には、どの葬儀社に依頼をするのか決まっていないケースもたくさんあります。そうすると、ご遺族様は多くの場合インターネットで葬儀社についてお調べになります。
最近はネット検索の上位には、だいたい葬儀社ではなく葬儀社を仲介するwebサイトが表示されます。このようなサイトは、事前に調べる用途としては、複数の葬儀社からお見積りが取れたり、情報比較ができるのでとても便利です。
ところが、ご家族が亡くなった直後というのは、お見積りを取ったり比較する時間や余裕もないことが多いです。
ですから、悔いのない最期のお別れをしていただくためにも、お別れの準備を前向きに、かつ早い段階から進めていただけるよう、医療業界、介護業界の方々と連携をしていけたら良いなと思っています。
事前に葬儀社ごとの特徴を把握できているのが理想なのですが、ネガティブなイメージもあってなかなか難しいのが現実ではあるんですけどね。
ありがとうございます。
では最後に、葬儀業界で感じるお仕事の魅力をぜひ教えてください。
千々岩:以前、祖父の葬儀を地元で行った際に、とても気になったことがありました。
それは、すでにお棺に納められていた祖父の口がぽかんと開いていたことと、お洋服を着せ替えずにお棺の上に掛けられていたことです。
「これって本当にどうしようもなかったのかな?」「もっとどうにか出来なかったのかな?」と疑問には思ったのですが、当時は全く違う仕事をしていたこともあり、こういうものなんだな、と考えてしまいました。
その後、葬儀業界に入って様々な勉強をしていく中で、当時疑問に感じたことは解決できることを知りました。口を閉じてあげることも出来るし、技術さえあれば着せ替えも可能でした。
そういった事を知らなければ、ご遺族様は祖父の葬儀に参列した時の私と同じように「そういうものなんだ」と諦めてしまうことが多いはずです。 そのように諦めてしまうのは、とてももったいないことだと今は強く感じます。
こうした体験があるおかげで「最期のお別れの時は、よりきれいでご遺族の記憶にある故人様のお姿に近づけて差し上げたい」という思いが一層強くなりました。
この考えは、納棺師や湯灌師が共通して抱いている思いではないでしょうか。
このように記憶に残るお別れのお手伝いを、やりがいを持って取り組めるという点が、納棺師や葬儀のお仕事の一番大きな魅力だと思います。
ありがとうございました。
エンゼルケアとは、死後に行う処置、保清、メイクなどを指しています。
今回は当社のグループのひとつ「はる訪問看護リハビリステーション」に在籍する看護師さんと共に、エンゼルケアに関するセミナーに参加させていただきました。
笹岡祐希
2016年株式会社ゲンテンリンクス入社、2022年葬祭ジョブへ配属。
「葬祭ジョブ」サイト内に掲載されているインタビュー記事の製作を担当している。
2016年株式会社ゲンテンリンクス入社、2022年葬祭ジョブへ配属。
「葬祭ジョブ」サイト内に掲載されているインタビュー記事の製作を担当している。
現在の日本の法律では、亡くなってから24時間は火葬をすることができません。
また、東京都23区には火葬場を持たない区もあるため、葬儀を行うまでに長い時で1週間以上かかることも少なくないそうです。長い時間が経ってしまうと、どうしてもご遺体の損傷が進んでしまいます。
そこでお別れの時に故人様がきれいなお姿のままでいられるよう、一番最初に行うのがエンゼルケアです。
エンゼルケアを行うのは、主に病院や介護施設、在宅ケアに携わる看護師さんや介護職の方たち。看護師さんは医療の、介護職の方は介護のプロですが、亡くなった後の処置に関しては決まったルールがないそうです。そのため、処置の方法は病院や看護師さんそれぞれで異なっています。
そこでこちらのセミナーでは、納棺師の目線から「亡くなった直後に大切にして欲しいポイント」を指導されています。
エンゼルケアで特に大切なこととは?奥深いお看取り後のケアについて。
エンゼルケアを行う際、あると便利なものを見せていただきました。100円ショップやホームセンターで入手できるものを活用されているそう。
さて、ご遺体には時間が経つにつれて様々な変化が起こります。その中でも、特に見た目に大きな変化が出るのが「死斑」と「乾燥」の二つであり、特に早い段階での対策が必要になるそうです。
死斑は亡くなってから30分程度で徐々に体表に現れるアザのこと。心臓によって体中をめぐっていた血液が、重力に従い下に集まるため発生します。
この死斑は時間が経つと消えなくなってしまうそう。そのため、亡くなった後に故人様の体勢を仰向けに整えるのも大切なエンゼルケアの一つなのだとか。
続いて乾燥。
生きている時に水分が多かった部分ほど、どんどん水分が失われていくそうで、特に乾燥が激しいのは目元や口元。亡くなってからついた傷跡からも水分が失われていくのだそうです。
こうした乾燥を放っておくと、ご遺体の皮膚の色が茶色や黒に変色したり、スキンスリップと呼ばれる皮膚がはがれてしまう状態になってしまいます。
このような変化を防ぐためにも、亡くなった直後からしっかりと保湿をすることがとても大切なのだとか。保湿がきちんと出来ていると、皮膚の変色を防げるだけでなく、納棺の際のお化粧のノリもよくなるそうです。
また、個人的に驚いたのは、故人様のお顔をふっくらさせるために使われている「含み綿」についてです。
含み綿は、葬儀業界においては、生前のお元気だった頃のお顔立ちに近づけるために使用されるイメージが強いものです。
ところが医療の世界では、お亡くなりになった後、胃液をはじめとする様々な体液が、お身体の外に出てこないよう抑える目的で使用されるのだとか。
そのため、含み綿を使用する場所も、医療介護と葬儀の現場ではそれぞれ異なるのだそうです。目的が変われば、同じ道具でも使い方が全く違うのはとても驚きました。
今回教えていただいた内容は、エンゼルケアのほんの一部にすぎません。
どんな葬儀社に依頼をするのか、納棺式は行われるのか、葬儀の日時はいつになるのか、などによって、エンゼルケアの内容や対応が変わります。
生前からご家族と、依頼する葬儀社や理想的な葬儀の内容などについてきちんと話し合っておくことも大切だと改めて感じました。
悔いのないご家族とのお別れにするためにも、終活はとても重要なことなんですね。
葬儀までにエンゼルケアでできること
こちらが含み綿の使用方法を説明する際に使われているマネキン。リアルな見た目と触り心地で、実際に触ったり、口に指を入れるのをためらってしまうほど。
今回の記事でご紹介した「死斑」や「乾燥」といった症状は、医師や看護師、介護職など、人が亡くなる場に立ち会う経験の多い方でなければ知らない事がほとんどではないでしょうか。ご遺族に対して、死後、ご遺体にどういった変化が起きるのかを事前に説明しておくことは、不安の軽減にもつながるため、グリーフケアの観点からもとても大切なことです。
実際に、自分がもし家族を在宅で看取ることになったとしたら、こうした知識を持っていることで、様々なご遺体の変化にも動揺することもないだろうと想像できます。
今回、エンゼルケアに関するセミナーへ参加させていただいたことで、エンゼルケアは故人様のお身体をなるべく生前に近いお姿に戻すだけでなく、ひいてはご遺族のグリーフケアにも繋がる大切な処置なのだと感じました。
ここからは、今回エンゼルケアセミナーをご担当いただいたディパーチャーズ・ジャパン株式会社、千々岩さんのミニインタビューです。
ディパーチャーズ・ジャパン株式会社
千々岩さん
医療機器の商社にて勤務後、納棺師育成も行うディパーチャーズジャパン株式会社へ転職。
千々岩さん
医療機器の商社にて勤務後、納棺師育成も行うディパーチャーズジャパン株式会社へ転職。
本日は、お時間をいただきありがとうございました。早速ですが、このようなセミナーを通して、千々岩さんが目指されていることは何ですか?また、改めてお看取りをされる看護師さんや介護職員さんにお伝えしたいことはありますか。
千々岩:エンゼルケアは医療業界や葬儀業界が身近ではない人にとっては、聞きなれない言葉ですよね。まだまだ認知度が低いので、多死社会となる今後に向けて、エンゼルケアの重要性を幅広くお伝えしたい、というのが一番の目標です。
お看取りをお手伝いされる看護師さんや、介護職の方に一番お伝えしたいのは「とにかく保湿が大切」ということですね。
きれいなお姿で故人様とお別れができれば、残されるご遺族に対するグリーフケアにも繋がります。
それから、ご遺族様ごとにエンゼルケアの正解は異なります。
ですから、是非ご遺族様と積極的にコミュニケーションをとっていただき、ご意見を聞きながらエンゼルケアを進めることを大切にしていただきたいです。
誰かが亡くなるというのは、ご遺族様にとっては非日常的な体験です。
くわえて、死後ご遺体に何が起きるか全く知らない方も多いですから、ご遺族様には死後の変化について詳細まで伝えていただきたいですね。
確かに、非日常的な体験というのはおっしゃる通りだと思います。
死後の変化を知っていれば、ご遺族様も落ち着いて対応することが出来そうですね。
では続いて、医療や介護業界の方々と交流をされる中で、葬儀や最期のお別れに対する課題は何か感じますか。
千々岩:在宅ないし、介護施設でお看取りをされた方の中には、どの葬儀社に依頼をするのか決まっていないケースもたくさんあります。そうすると、ご遺族様は多くの場合インターネットで葬儀社についてお調べになります。
最近はネット検索の上位には、だいたい葬儀社ではなく葬儀社を仲介するwebサイトが表示されます。このようなサイトは、事前に調べる用途としては、複数の葬儀社からお見積りが取れたり、情報比較ができるのでとても便利です。
ところが、ご家族が亡くなった直後というのは、お見積りを取ったり比較する時間や余裕もないことが多いです。
ですから、悔いのない最期のお別れをしていただくためにも、お別れの準備を前向きに、かつ早い段階から進めていただけるよう、医療業界、介護業界の方々と連携をしていけたら良いなと思っています。
事前に葬儀社ごとの特徴を把握できているのが理想なのですが、ネガティブなイメージもあってなかなか難しいのが現実ではあるんですけどね。
ありがとうございます。
では最後に、葬儀業界で感じるお仕事の魅力をぜひ教えてください。
千々岩:以前、祖父の葬儀を地元で行った際に、とても気になったことがありました。
それは、すでにお棺に納められていた祖父の口がぽかんと開いていたことと、お洋服を着せ替えずにお棺の上に掛けられていたことです。
「これって本当にどうしようもなかったのかな?」「もっとどうにか出来なかったのかな?」と疑問には思ったのですが、当時は全く違う仕事をしていたこともあり、こういうものなんだな、と考えてしまいました。
その後、葬儀業界に入って様々な勉強をしていく中で、当時疑問に感じたことは解決できることを知りました。口を閉じてあげることも出来るし、技術さえあれば着せ替えも可能でした。
そういった事を知らなければ、ご遺族様は祖父の葬儀に参列した時の私と同じように「そういうものなんだ」と諦めてしまうことが多いはずです。 そのように諦めてしまうのは、とてももったいないことだと今は強く感じます。
こうした体験があるおかげで「最期のお別れの時は、よりきれいでご遺族の記憶にある故人様のお姿に近づけて差し上げたい」という思いが一層強くなりました。
この考えは、納棺師や湯灌師が共通して抱いている思いではないでしょうか。
このように記憶に残るお別れのお手伝いを、やりがいを持って取り組めるという点が、納棺師や葬儀のお仕事の一番大きな魅力だと思います。
ありがとうございました。