株式会社博愛社 オーロラホール
代表取締役社長:村上 武白さん
今回は株式会社博愛社の村上社長にお話をお伺いしました。
非常に高いサービス満足度の秘密や、社会貢献や地域との深い繋がりから生まれたサービス、さらにはご自身が経験された生花部門の立ち上げと会社の立て直しまで、興味深いお話をたくさん伺うことができました!
こちらはインタビュー後半です。【インタビュー前半はこちら】
前半のインタビューでは高い評価を受けるサービスや地元に根付いた事業展開についてお話してくださった、株式会社博愛社の村上社長。
後半ではなぜ博愛社で生花部門を立ち上げたのか?そして生花部門でのやりがいとは?など様々なお話をお伺いしました。
村上社長は以前、生花部門のお仕事を担当されていたと伺いました。貴社で生花部を創設することになった経緯をお聞かせいただけますか。
村上社長:いま、私は生花の仕事をしていませんが、もともと弊社の生花部門を立ち上げたのは私でした。私は4代目の代表なのですが、若いころは「会社は継がない」と言っていて、葬儀業に携わるつもりは全くなかったんです。
その後20代の後半に将来独立して花屋を開業するのもいいな、と思ってお花の業界に飛び込みました。というのも、私の父も当時現役で弊社の社長でしたし、親戚が経営している葬儀社もあったんです。
ですからお花の仕事を覚えたら独立して、親戚の葬儀社へ営業に行ってお仕事がもらえたらいいな、と考えたことがきっかけでした。
そんな動機で飛び込んだお花の業界でしたが、たまたま父親の代で弊社の経営がかなり厳しくなってしまいました。その当時は、親族以外の従業員は5人程度の小さな会社でしたが、お給料を払うためにも借り入れが必要になってしまい、かなりまずい状況になっていたんです。親戚みんなが呼ばれて「会社がいよいよ倒産するかもしれない」という話し合いをしたほどです。
その時にたまたま父親から「うちで生花部を立ち上げができないかな?」と相談を持ち掛けられましたそれで当時の経理に毎月使用しているお花の本数や、業者から来ている請求書を見せてもらったうえで計算してみたんです。
すると私のほかにもう一人スタッフを雇った場合の人件費を考慮しても、毎月150万円くらいは利益が出せそうだということが分かりました。
150万円!かなり大きいですね。
村上社長:でしょう? そこで当時のスタッフ5人がそれぞれ月30万円くらいのお給料だとして、生花部門を内製化する事で5人分の人件費くらいは出そうだって事が分かったわけです。
当然「すぐに戻ってきてやってくれないか?」という話になって、生花部門を立ち上げることになりました。
会社の危機を救うために生花部門を立ち上げたという事なんですね。
村上社長:はい。 それに生花部門を立ち上げる中で、実際に自社の葬儀を見るようになって「これでは駄目だ」と強く感じたんです。
というのも、戻ってくる前に働いていた花屋では、20社くらいの葬儀社の下請けに入っていました。そのおかげで時代の流れに乗って成長している会社と、老舗でも衰退している会社の両方を間近で見ることができました。
当時の弊社がまさにこれまで見てきた衰退している会社の雰囲気と同じだったことを、戻ったことによって理解することができたんです。そこから色々やろう!ということで、先ほどお話したような改革をスタートさせました。
たくさんの葬儀社を見た後に戻ったからこそ、見えてきたものがあったのですね。
実際に生花部門を内製化したことで、以前と変わったことはありますか?
村上社長:やはり自社でお花を扱うので、色々なサービスでお花をつけられるのは強みになりましたね。
例えば故人様に小さなお孫さんが5人いたとしましょう。2,3歳の子でも持てるようなブーケを5個用意してほしいと普通お花屋さんに発注したら、どんなに小さなブーケであっても全てお金がかかります。
でも自社で対応できれば、そうした細かいサービスもより少額だったり、あるいは無料で提供することができるようになります。
またご縁があって、サービスで祭壇をひとつ大きなグレードのものに変更することもあります。これも自社でお花を扱っていると、準備や設営の面から見てもスムーズな対応が可能です。
より柔軟な対応が可能になったのですね。
ちなみに葬儀に使用していいお花、さけた方がいいお花など、何かルールはあるのでしょうか。
村上社長:特にルールはありません。どんなお花も自由に使うことができますので、故人様やご家族がお好きなお花を使用することも可能です。
ただ祭壇についてはカタログをご用意していますから、そのカタログを見て気に入った形の祭壇を選んでいただくことが多いです。そのあと季節のお花を使用して祭壇を飾ります。
例えば今の時期はひまわりが出回っていますが、故人様の好きなお花がひまわりだったということであれば、遺影の周りにたくさん使用することもできます。
好きな色や好きなお花で、棺の中を埋めてあげたいというご希望は頻繁にあります。こうしたご要望については臨機応変に対応させていただいています。
祭壇については生花部門の方が葬祭ディレクターと、こんな色やお花がお好きだったと打ち合わせをして、形など色々と決めていくんですね。
村上社長:そうです。オーソドックスな葬儀に関しては、先ほどお話したようにカタログの中から形を選んでいただき、色味の変更などは全て無料の範囲内で行っています。
カタログにないオリジナルの祭壇をご希望の場合は、スケッチからデザインを起こすことも可能です。
そうしたオリジナルの祭壇も様々な形で製作させていただいています。
例えば故人様がお好きだったゴルフ場を再現してほしいとか、将棋をやっていたから駒の形にしたいとか、実に様々なご依頼をいただきます。追加の費用が掛かってしまいますが、その分可能な限りご希望に添えるものをご提供しています。
こうしたご依頼も、生花部門が内製化されているからこそ細かい要望を共有するハードルが低いので、スムーズに進むことも多いんです。
なるほど、同じ会社内で取り組むことでメリットも大きいんですね。
大きな会社の社葬は本当にすごいですよ。名札のついている供花がありますよね、あのお花が普通の会社の社長さんであれば、大体30本から40本くらいというのが一般的なんです。ところがすごい数の注文を頂くことがあるんですよ。150本とか200本とか…お花をいくら用意しても、準備が終わらないんです。
そういった大規模な葬儀の時は、朝会社に出勤してみたらファックスでの供花の注文が山積みになっている、なんてこともありました。
そういった大規模な葬儀は、喪主などを勤めるご家族や葬儀会社も大変でしょうが、花屋にとっても一大事なんです。
お花の市場は基本的には月曜、水曜、金曜にしか開きません。その合間に入った葬儀の規模が大きくなりそうだということが分かれば、市場が開く日までお通夜を伸ばしてほしいとお願いすることもありました。例えば金曜日にお亡くなりになったら月曜日まで伸ばしてほしい、という感じですね。 そうした準備のこともありましたし、週末に規模の大きな葬儀が入ると「やばい!」という気持ちになりましたね。
あとは訃報自体が土曜、日曜の間に流れていても、届いた訃報を皆さんお休みされていて見ていないことも多いんです。そうすると、月曜日の朝に大切な取引先の方が亡くなったということで一気に注文が集まることもありました。
ですから、どれくらい注文が入って、お花が必要なのか予測する力も重要でしたね。
そういうヒヤヒヤした現場を完成させたときには達成感がありました。思い出に残っている現場も、大体今お話したような大きなお仕事ばかりですね。
確かにギリギリまでどうなるか…と思いながら必死に取り組んだお仕事が成功したときというのは、達成感がありますね!
自社で生花部門も運営されている会社というのは多数派ではないと思いますが、先ほどお伺いしたようなサービスを提供する上でのメリットのほかに、同じ会社だからこその利点はあるのでしょうか。
村上社長:生花部門は現在分社化したんですが、同じ会社の社員同士という感覚は大切にしてもらっています。メリットとは違いますが、グループをあわせると50人以上スタッフがいて、普通のお花屋さんでこれくらいの人数がいるところはなかなかありません。ですからそういった大人数でわいわい仕事ができる点は面白いかもしれませんね。
あとは下請けではないというのも魅力的なポイントだと感じます。
お花屋さんやギフト屋さんは葬儀社からするとどうしても下請けみたいになってしまいますよね。私がお花屋さんで働いていた時は10対0の関係性で、時には理不尽な怒られ方をすることもありました。
でも弊社では生花部門が同じ会社ですから、一緒に意見を出し合ってより良いものにしようとか、問題をどう解決しようとか、対等に話し合いを行います。
そういったこともあってか、以前他社で生花をやっていた方が今働いてくださっていることが多いですね。
あと、これは葬祭ディレクターさんのお話になりますが、必ず生花部門に研修に行かせるようにしています。
村上社長:葬儀屋に長く勤めていても、意外と花の名前を知らない人が多いんです。ですから最低限いつも使用しているお花の名前くらいは研修で覚えてほしい、ということがひとつあります。
もうひとつは急なトラブルがあってお花の名札を入れ替えたり、お花に触れることがあります。こうした作業も研修の中で経験をしておくことでスムーズに対応ができますし、生花部門で研修を受けることで、お互いの気持ちを分かるようになって欲しいということも大きな目的です。
そこで新人のうちに葬儀のことを覚えたら、1か月から2か月くらい生花部門に行って研修を受けてもらうようにしているんです。
重要なことですね。どんな業種でもほかの部署が何をしているのか分からないことは多いと思います。それにお花については本当にお花が好きという方でないと、あまり種類を覚えることもありませんね。
レギュラーで使用するお花はそんなに数は多くありません。すべてのお花を覚えなくてもいいけれど、基本的に1年中使用しているようなお花は覚えておいていただきたいと思っています。
百合、カーネーション、トルコキキョウ、それからスプレーマム、あと菊はいずれも通年使用するので最低限覚えておいてほしいなと思っているんです。
急にお客様にお花の名前を聞かれることもありますし、どんなお花を提供しているのか、商品を把握することはとても重要ですからね。
それによく使うお花でも扱いが難しいものも色々あります。
実はよく使うお花の中でも百合は結構難しいお花なんです。使用頻度は非常に高いんですが、仕入れてみないと花のつぼみの状態が分かりません。到着してすぐに商品化できそうなものもあったり、逆にしばらく置いて商品になるまで待つ必要がある場合もあります。
そうしたお花は倉庫の中に設置している10畳の業務用冷蔵庫の中で保管します。常時様々なお花が何千本も入っていますが、実際にどんな風に保管されているのかというのは、生花部門や花屋で働いてみなければなかなか知る機会がありません。
祭壇に使うお花がこんな風に保管され管理されていて、実際どういった流れで使用されているのかを知ってもらいたいですね。
普通のお花屋さんであれば、月曜に仕入れたものが水曜日になくなっているということはあまり無いと思いますが、弊社ではほとんど使い切ってしまいます。ですから、かなり鮮度の良いお花を提供できている自負があります。
そういったところも、葬祭ディレクターを担当する社員には知っておいてもらいたいんです。
ありがとうございます。
では最後の質問ですが、今後生花部門で働いてみたい、挑戦してみたいと思っている方にどういった心構えでお仕事をスタートすべきなのか、ぜひお考えを聞かせてください。
対して生花をやる人は、接客業は苦手だなと思っている人が入ってくることが多いんです。
ただ、裏方の仕事とはいえスタッフ同士のやり取りやお客様とお話をすることもありますから、コミュニケーションに抵抗がない人の方が続けやすいお仕事だと思います。
そうしたお仕事の中でお客様がすごく感動してくださったり、たくさん褒めてくださったり、祭壇を見て泣いてくださる方もいます。そういった反応を得ることが、大きなモチベーションに繋がりますね。こうしたお客様からのリアクションが好きでやっている人もいるくらいです。
あとは祭壇のような大規模なアートをお花で作ることができるのは葬儀屋くらいです。
ブライダルの卓上花は、葬儀で言ったら一番小さなお花くらいなんですよ。
将来的にデザインを起こすところからできるようになると、ますます楽しくなってくると思います。職人ごとのセンスが光りますし、1年、2年くらいの経験では大きなものを作れるようにはならない奥深さもあります。
大きなお花の作品を作りたいという方、お客様の喜ぶ姿を見たいと考えておられる方にはぜひ挑戦していただきたいですね。
ありがとうございました。
編集後記 後編
前後編にわたってお話を伺った今回のインタビュー。
後半は葬儀のお仕事の中でも、一体どんな風に取り組まれているのか知らないことが多い生花のお仕事について、様々なお話をお伺いしました。 葬儀という業界だからこそできる大きな祭壇づくりや、一から作り上げる楽しみだけでなく、お客様から良い反応をいただけた時の喜びなど、生花部門のやりがいは多岐にわたることを生き生きとお話してくださった村上社長。
より職人としての側面が強く感じられるお仕事であることだけでなく、お客様に喜んでいただくことのできるサービス業の一つであることを強く感じることができました!
非常に高いサービス満足度の秘密や、社会貢献や地域との深い繋がりから生まれたサービス、さらにはご自身が経験された生花部門の立ち上げと会社の立て直しまで、興味深いお話をたくさん伺うことができました!
こちらはインタビュー後半です。【インタビュー前半はこちら】
前半のインタビューでは高い評価を受けるサービスや地元に根付いた事業展開についてお話してくださった、株式会社博愛社の村上社長。
後半ではなぜ博愛社で生花部門を立ち上げたのか?そして生花部門でのやりがいとは?など様々なお話をお伺いしました。
会社の危機に生花部門を立ち上げ!内製化で強みも生まれる
ここからは生花部門についてのお話をお伺いできればと思います。村上社長は以前、生花部門のお仕事を担当されていたと伺いました。貴社で生花部を創設することになった経緯をお聞かせいただけますか。
村上社長:いま、私は生花の仕事をしていませんが、もともと弊社の生花部門を立ち上げたのは私でした。私は4代目の代表なのですが、若いころは「会社は継がない」と言っていて、葬儀業に携わるつもりは全くなかったんです。
その後20代の後半に将来独立して花屋を開業するのもいいな、と思ってお花の業界に飛び込みました。というのも、私の父も当時現役で弊社の社長でしたし、親戚が経営している葬儀社もあったんです。
ですからお花の仕事を覚えたら独立して、親戚の葬儀社へ営業に行ってお仕事がもらえたらいいな、と考えたことがきっかけでした。
そんな動機で飛び込んだお花の業界でしたが、たまたま父親の代で弊社の経営がかなり厳しくなってしまいました。その当時は、親族以外の従業員は5人程度の小さな会社でしたが、お給料を払うためにも借り入れが必要になってしまい、かなりまずい状況になっていたんです。親戚みんなが呼ばれて「会社がいよいよ倒産するかもしれない」という話し合いをしたほどです。
その時にたまたま父親から「うちで生花部を立ち上げができないかな?」と相談を持ち掛けられましたそれで当時の経理に毎月使用しているお花の本数や、業者から来ている請求書を見せてもらったうえで計算してみたんです。
すると私のほかにもう一人スタッフを雇った場合の人件費を考慮しても、毎月150万円くらいは利益が出せそうだということが分かりました。
150万円!かなり大きいですね。
村上社長:でしょう? そこで当時のスタッフ5人がそれぞれ月30万円くらいのお給料だとして、生花部門を内製化する事で5人分の人件費くらいは出そうだって事が分かったわけです。
当然「すぐに戻ってきてやってくれないか?」という話になって、生花部門を立ち上げることになりました。
会社の危機を救うために生花部門を立ち上げたという事なんですね。
村上社長:はい。 それに生花部門を立ち上げる中で、実際に自社の葬儀を見るようになって「これでは駄目だ」と強く感じたんです。
というのも、戻ってくる前に働いていた花屋では、20社くらいの葬儀社の下請けに入っていました。そのおかげで時代の流れに乗って成長している会社と、老舗でも衰退している会社の両方を間近で見ることができました。
当時の弊社がまさにこれまで見てきた衰退している会社の雰囲気と同じだったことを、戻ったことによって理解することができたんです。そこから色々やろう!ということで、先ほどお話したような改革をスタートさせました。
たくさんの葬儀社を見た後に戻ったからこそ、見えてきたものがあったのですね。
実際に生花部門を内製化したことで、以前と変わったことはありますか?
村上社長:やはり自社でお花を扱うので、色々なサービスでお花をつけられるのは強みになりましたね。
例えば故人様に小さなお孫さんが5人いたとしましょう。2,3歳の子でも持てるようなブーケを5個用意してほしいと普通お花屋さんに発注したら、どんなに小さなブーケであっても全てお金がかかります。
でも自社で対応できれば、そうした細かいサービスもより少額だったり、あるいは無料で提供することができるようになります。
またご縁があって、サービスで祭壇をひとつ大きなグレードのものに変更することもあります。これも自社でお花を扱っていると、準備や設営の面から見てもスムーズな対応が可能です。
より柔軟な対応が可能になったのですね。
ちなみに葬儀に使用していいお花、さけた方がいいお花など、何かルールはあるのでしょうか。
村上社長:特にルールはありません。どんなお花も自由に使うことができますので、故人様やご家族がお好きなお花を使用することも可能です。
ただ祭壇についてはカタログをご用意していますから、そのカタログを見て気に入った形の祭壇を選んでいただくことが多いです。そのあと季節のお花を使用して祭壇を飾ります。
例えば今の時期はひまわりが出回っていますが、故人様の好きなお花がひまわりだったということであれば、遺影の周りにたくさん使用することもできます。
好きな色や好きなお花で、棺の中を埋めてあげたいというご希望は頻繁にあります。こうしたご要望については臨機応変に対応させていただいています。
祭壇については生花部門の方が葬祭ディレクターと、こんな色やお花がお好きだったと打ち合わせをして、形など色々と決めていくんですね。
村上社長:そうです。オーソドックスな葬儀に関しては、先ほどお話したようにカタログの中から形を選んでいただき、色味の変更などは全て無料の範囲内で行っています。
カタログにないオリジナルの祭壇をご希望の場合は、スケッチからデザインを起こすことも可能です。
そうしたオリジナルの祭壇も様々な形で製作させていただいています。
例えば故人様がお好きだったゴルフ場を再現してほしいとか、将棋をやっていたから駒の形にしたいとか、実に様々なご依頼をいただきます。追加の費用が掛かってしまいますが、その分可能な限りご希望に添えるものをご提供しています。
こうしたご依頼も、生花部門が内製化されているからこそ細かい要望を共有するハードルが低いので、スムーズに進むことも多いんです。
なるほど、同じ会社内で取り組むことでメリットも大きいんですね。
大規模な葬儀も大きなやりがい!生花部門のお仕事
村上社長がお花のお仕事をされていた時に、特に印象に残っておられることや、大変だった思い出もぜひお伺いしたいです。こうした祭壇はすべて手作業で作成されている。美しく整った祭壇を作るには繊細なスキルが必要だそうで、一人前として大きな祭壇を作れるようになるためには1年、2年程度では難しいのだそう。
村上社長:やっぱり規模の大きい葬儀は印象に残っていますね。大きな会社の社葬は本当にすごいですよ。名札のついている供花がありますよね、あのお花が普通の会社の社長さんであれば、大体30本から40本くらいというのが一般的なんです。ところがすごい数の注文を頂くことがあるんですよ。150本とか200本とか…お花をいくら用意しても、準備が終わらないんです。
そういった大規模な葬儀の時は、朝会社に出勤してみたらファックスでの供花の注文が山積みになっている、なんてこともありました。
そういった大規模な葬儀は、喪主などを勤めるご家族や葬儀会社も大変でしょうが、花屋にとっても一大事なんです。
お花の市場は基本的には月曜、水曜、金曜にしか開きません。その合間に入った葬儀の規模が大きくなりそうだということが分かれば、市場が開く日までお通夜を伸ばしてほしいとお願いすることもありました。例えば金曜日にお亡くなりになったら月曜日まで伸ばしてほしい、という感じですね。 そうした準備のこともありましたし、週末に規模の大きな葬儀が入ると「やばい!」という気持ちになりましたね。
あとは訃報自体が土曜、日曜の間に流れていても、届いた訃報を皆さんお休みされていて見ていないことも多いんです。そうすると、月曜日の朝に大切な取引先の方が亡くなったということで一気に注文が集まることもありました。
ですから、どれくらい注文が入って、お花が必要なのか予測する力も重要でしたね。
そういうヒヤヒヤした現場を完成させたときには達成感がありました。思い出に残っている現場も、大体今お話したような大きなお仕事ばかりですね。
確かにギリギリまでどうなるか…と思いながら必死に取り組んだお仕事が成功したときというのは、達成感がありますね!
自社で生花部門も運営されている会社というのは多数派ではないと思いますが、先ほどお伺いしたようなサービスを提供する上でのメリットのほかに、同じ会社だからこその利点はあるのでしょうか。
村上社長:生花部門は現在分社化したんですが、同じ会社の社員同士という感覚は大切にしてもらっています。メリットとは違いますが、グループをあわせると50人以上スタッフがいて、普通のお花屋さんでこれくらいの人数がいるところはなかなかありません。ですからそういった大人数でわいわい仕事ができる点は面白いかもしれませんね。
あとは下請けではないというのも魅力的なポイントだと感じます。
お花屋さんやギフト屋さんは葬儀社からするとどうしても下請けみたいになってしまいますよね。私がお花屋さんで働いていた時は10対0の関係性で、時には理不尽な怒られ方をすることもありました。
でも弊社では生花部門が同じ会社ですから、一緒に意見を出し合ってより良いものにしようとか、問題をどう解決しようとか、対等に話し合いを行います。
そういったこともあってか、以前他社で生花をやっていた方が今働いてくださっていることが多いですね。
あと、これは葬祭ディレクターさんのお話になりますが、必ず生花部門に研修に行かせるようにしています。
葬祭ディレクターも生花に挑戦!そのメリットとは?
葬祭ディレクターさんも生花部門で研修をされるのは珍しいですね!どういった意図があって研修を行うのでしょうか。村上社長:葬儀屋に長く勤めていても、意外と花の名前を知らない人が多いんです。ですから最低限いつも使用しているお花の名前くらいは研修で覚えてほしい、ということがひとつあります。
もうひとつは急なトラブルがあってお花の名札を入れ替えたり、お花に触れることがあります。こうした作業も研修の中で経験をしておくことでスムーズに対応ができますし、生花部門で研修を受けることで、お互いの気持ちを分かるようになって欲しいということも大きな目的です。
そこで新人のうちに葬儀のことを覚えたら、1か月から2か月くらい生花部門に行って研修を受けてもらうようにしているんです。
重要なことですね。どんな業種でもほかの部署が何をしているのか分からないことは多いと思います。それにお花については本当にお花が好きという方でないと、あまり種類を覚えることもありませんね。
(こちらはイメージ写真です)
様々なお花がたくさん使用される葬儀の現場。使用されるお花の中でもよく使用されるものはぜひ覚えておきたいですね。
村上社長:そうなんですよ。レギュラーで使用するお花はそんなに数は多くありません。すべてのお花を覚えなくてもいいけれど、基本的に1年中使用しているようなお花は覚えておいていただきたいと思っています。
百合、カーネーション、トルコキキョウ、それからスプレーマム、あと菊はいずれも通年使用するので最低限覚えておいてほしいなと思っているんです。
急にお客様にお花の名前を聞かれることもありますし、どんなお花を提供しているのか、商品を把握することはとても重要ですからね。
それによく使うお花でも扱いが難しいものも色々あります。
実はよく使うお花の中でも百合は結構難しいお花なんです。使用頻度は非常に高いんですが、仕入れてみないと花のつぼみの状態が分かりません。到着してすぐに商品化できそうなものもあったり、逆にしばらく置いて商品になるまで待つ必要がある場合もあります。
そうしたお花は倉庫の中に設置している10畳の業務用冷蔵庫の中で保管します。常時様々なお花が何千本も入っていますが、実際にどんな風に保管されているのかというのは、生花部門や花屋で働いてみなければなかなか知る機会がありません。
祭壇に使うお花がこんな風に保管され管理されていて、実際どういった流れで使用されているのかを知ってもらいたいですね。
普通のお花屋さんであれば、月曜に仕入れたものが水曜日になくなっているということはあまり無いと思いますが、弊社ではほとんど使い切ってしまいます。ですから、かなり鮮度の良いお花を提供できている自負があります。
そういったところも、葬祭ディレクターを担当する社員には知っておいてもらいたいんです。
ありがとうございます。
では最後の質問ですが、今後生花部門で働いてみたい、挑戦してみたいと思っている方にどういった心構えでお仕事をスタートすべきなのか、ぜひお考えを聞かせてください。
博愛社のサービスでも特に人気だという喪主花。とても大きなお花ですが、葬儀で提供されるお花では比較的小さいサイズです!
村上社長:葬儀でディレクターをやる人は一番お客様に近いところで仕事をしますから、サービス業であることは分かりやすいと思います。対して生花をやる人は、接客業は苦手だなと思っている人が入ってくることが多いんです。
ただ、裏方の仕事とはいえスタッフ同士のやり取りやお客様とお話をすることもありますから、コミュニケーションに抵抗がない人の方が続けやすいお仕事だと思います。
そうしたお仕事の中でお客様がすごく感動してくださったり、たくさん褒めてくださったり、祭壇を見て泣いてくださる方もいます。そういった反応を得ることが、大きなモチベーションに繋がりますね。こうしたお客様からのリアクションが好きでやっている人もいるくらいです。
あとは祭壇のような大規模なアートをお花で作ることができるのは葬儀屋くらいです。
ブライダルの卓上花は、葬儀で言ったら一番小さなお花くらいなんですよ。
将来的にデザインを起こすところからできるようになると、ますます楽しくなってくると思います。職人ごとのセンスが光りますし、1年、2年くらいの経験では大きなものを作れるようにはならない奥深さもあります。
大きなお花の作品を作りたいという方、お客様の喜ぶ姿を見たいと考えておられる方にはぜひ挑戦していただきたいですね。
ありがとうございました。
編集後記 後編
前後編にわたってお話を伺った今回のインタビュー。
後半は葬儀のお仕事の中でも、一体どんな風に取り組まれているのか知らないことが多い生花のお仕事について、様々なお話をお伺いしました。 葬儀という業界だからこそできる大きな祭壇づくりや、一から作り上げる楽しみだけでなく、お客様から良い反応をいただけた時の喜びなど、生花部門のやりがいは多岐にわたることを生き生きとお話してくださった村上社長。
より職人としての側面が強く感じられるお仕事であることだけでなく、お客様に喜んでいただくことのできるサービス業の一つであることを強く感じることができました!