NK東日本株式会社 / 『最後に「ありがとう」と言えたなら』:著者インタビュー|葬祭ジョブ

インタビュー

掲載日:2022年7月1日

今回インタビューに応じてくださったのは30代にしてキャリアチェンジをして納棺師になった大森あきこさんと、大森さんが研修を担当するNK東日本の上舘智行さん。
大森さんの著書「最後に「ありがとう」と言えたなら」(新潮社)を葬祭ジョブ経由で入社された業界未経験の方にプレゼントさせていただいているご縁から、今回のインタビューが実現しました。 これから納棺師や葬儀業界に挑戦したい方から、納棺師として今後のキャリアをどうするべきかを悩んでいる方まで、必見のインタビューとなりました。



半年後の独り立ちに向けて研修中!

早速ですが、先程は、4月に納棺師としてNK東日本に入社された方々への研修を行っておられたんですね。
大森さん:新卒採用の方も中途採用の方もいます。皆さんこれまで納棺師として経験が無い方々です。
これから半年間、時間をかけて納棺式の流れやお着せ替えを覚えていただく予定です。
ご遺族様が「大切に扱ってくれているんだ」という信頼感を覚えていただけるための要素がお着せ替えの所作の中にはたくさん含まれていますので、まずはお着せ替えを通してご遺族様から信頼を得られるように頑張ってほしいですね。

お着せ替えの手順やお作法など、覚えることはまだまだたくさんありそうですね。
大森さん:そうですね、まだ始めたばかりなので勉強することはたくさんあります。 また、作法だけでなくどうすれば故人様のお身体に負担がかからないか、ご遺族様からも故人様を丁寧に扱っているように見えるか、納棺師として一人前になるとそうした細かな部分まで気配りができるようになると思います。 大体半年後には社内の認定試験があって、手順をしっかり覚えているか、故人様を丁寧に扱うことができるかなど、研修の成果を見させていただきます。

半年ほどで認定試験をクリアすることが目標になるんでしょうか。
大森さん:そうですね、半年後を目指していただいています。研修と先輩方へ同行することで、半年間基礎をじっくり学ぶことができる環境です。例えば4月に入社した人であれば、葬儀業界が忙しくなってくる年末くらいまでに、一人前になっていただけたらいいな、と思っています。
→スタッフが見学させていただいた研修の様子はこちら

聴く力が重要!ご遺族様との対話も納棺師の大切なお仕事。

著書の中で、お化粧と処置、湯灌、お着せ替えの技術のほかにコミュニケーションの技術を磨く必要があると書かれているのを拝見しました。納棺師に必要なコミュニケーションスキルについて、詳しく伺えますか。
大森さん:納棺式の流れを覚えることはもちろん大切なのですが、納棺師はご遺族様のご希望を的確に把握したうえで、それを持っている技術で叶えて差し上げなければなりません。
ですからコミュニケーションといいますか、ご遺族様がどういった希望を持っていらっしゃるのかを聞き取る能力が重要だと思います。
とはいえ、ご遺族様によってご要望は千差万別ですし、状況も異なるため、その時その時の状況に応じた柔軟な傾聴力が求められます。
そもそも葬儀で何ができるか分からないという方や、大切な方が亡くなった喪失感で茫然としている方もおられます。そういった方々からご要望を引き出せることが納棺師にとってはとても重要です。
お伺いしたご要望を踏まえて納棺式を執り行い、その結果ご遺族様から信頼をいただけたと感じられると、それはそのままやりがいにも変わります。

ただ最近は、コロナ禍の影響もありご遺族様の立ち会いができない現場が増えています。そういった現場では、納棺式を終えた後のご遺族様の様子を確認できないため、納棺師としてのやりがいをどこで得るのか?ご遺族様がどんなふうに喜んでくれるのか?ということを想像しながらお仕事をする場面が増えているように思います。そういった意味では、以前よりやりがいを得るのが難しくなっているかもしれません。

立ち会いが無い現場というと納棺は全て終わっていて、ご遺族様は葬儀の場でお棺の中の故人様と対面するような流れになるのでしょうか。
大森さん:そうです。ただ納棺式という時間を持つかどうかは、ご遺族様の考えだけではなく、葬儀会社の考えにも大きく影響されます。ですから当然、最初から納棺式というものを知らなかったという方もおられると思います。
今の時代は沢山の参列者を呼びにくいからこそ、納棺式という存在を皆さんに知っていただいて、しっかりとした最後のお別れをしていただけたら良いなと個人的には思っています。

立ち会える納棺式でご遺族の不安も取り除く

NK東日本では「メイクドレス」というサービス名で、ご遺族様の前でのお着せ替えをやっていらっしゃいますよね。
大森さん:はい、やっています。
立ち会えるんだ、着せ替えを見せてくれるんだ!って驚かれる方が多いですね。
ふすまを閉めて、ご遺族様にお見せせずにお着せ替えをしていると、不安になったり「何をしているんだろう?」って思われるご遺族様が多いんじゃないかと思います。
また、ふすまがない家の場合には、ご遺族様の目の前でお着せ替えをしなければならないこともあります。ですから、ご遺族様に見ていただけるお着せ替えの技術を持っているのは大切なことだと思います。

先ほどの研修でも見学させていただきましたが、お着せ替えを全部見せてしまうというのは本当にびっくりしました。
大森さん:もちろん納棺の際にはお着せ替えだけでなく、ピンセットを使うシーンもあります。ですからそういったところは綿で覆いをかけてお見せしないようにしますが、基本的には全てご遺族様に見ていただけるようにというのが前提になっています。

お着せ替えをご遺族様にすべて見ていただくというのは一般的なものなのでしょうか。
大森さん:以前私が所属していた湯灌の会社では、二人でお着せ替えをしていました。
なるべく手早くお着せ替えをするという方針だったので、ご遺族様に見ていただくには少し難しかったなと感じます。
しっかりとご覧いただくのではなくて、手早くお着せ替えをするという感じでした。
やはり一口に納棺といっても、会社によってさまざまなんですね。

古い葬儀の形にこだわるからこそ「立ち会える納棺式」になる。

お着せ替えに使用する経帷子(きょうかたびら)。 実際の納棺式では、この経帷子にこだわらず様々な服を使用するという。
お着せ替えをすべて見ていただける「メイクドレス」というサービスはどなたがお考えになられたのでしょうか。
大森さん:私がNK東日本に入社した当時からすでに行われていました。 もう何年くらいになるんでしょう?

上舘さん:私が入社したときにも、すでに提供されているサービスでした。
少し作法がデフォルメされた時期はあったのかもしれませんが、映画「おくりびと」が上映されるよりも前ですから、20年近くご遺族様にお着せ替えを見ていただく形になっています。

そんなに以前から行われていたものなんですね。
上舘さん:これは私の個人的な考えなのですが、メイクドレスのようにご遺族様の前でお着せ替えをしたり湯灌をしたりするというのは、特別新しいことではないんじゃないかと思っています。 昔は故人様のご家族や近しい方、集落の偉い人が集まって故人様のお体を拭いてあげて、用意した白装束を着せて差し上げてお見送りをするというのが普通だったはずです。
ですからご遺族様の見えないところでお着せ替えをしたりするというのは、もともとの納棺式の意味が分からなくなってしまうのではないかなと。弊社ではそういう考えから、今のサービスがスタートしていると思います。
ご遺族様の前で行う納棺式は昔からの葬儀の形を大切に残された結果なんですね。

少しお話が変わりますが、大森さんは納棺師として一度転職されていらっしゃると伺いました。NK東日本にご入社をされたのはどういった理由からだったのでしょうか。
大森さん:当時納棺師として高い技術を学べると感じたので、NK東日本への転職を決めました。すでに納棺師としてのキャリアはある程度積んでいたのですが、もっと納棺の技術を勉強したいと思ったことが一番大きな理由です。

納棺師としての停滞期はみんなに訪れる!?乗り越えるために必要なのは使命。教育担当という立場やご自身の経験から、納棺師としてのキャリアを積んでいくうえでハードルと感じることはありますか?
大森さん:新人の頃は覚えることがたくさんあって、すごく大変なんですよね。ひとつひとつクリアしなければならない課題もありますから。でも逆に、新人の時期はそうした課題をクリアするということを目標にして乗り越えられることが多い気がします。 ところが一通り全部できるようになると、次はどこを目指していけばいいのか迷ってしまう人がとても多いんです。大体2~3年目ぐらいでしょうか。

それくらいの時期に迷われる方が多いんですね…。
大森さん:そうですね、どんなお仕事でもあることだと思いますが、ある程度できるようになると「この先、どこを目指して頑張ればいいのか分からない」という時期が来ると思うんです。 その時に「あの先輩を目指そう!」っていう先輩がいたりすると、またモチベーションが上がって、次の段階に進んでいくことができると思います。ところがそういった目標が見つからないと、モチベーションを維持して長く続けていくのってなかなか難しいんですよね。 あとは後輩から頼られたり、自分の技術を教えていくとか、そうした使命があると続けやすいのかなと思います。

納棺師としてのレガシーを残す!大森さんのキャリアは研修担当というステージへ。 確かに使命ややりがいというのは、お仕事を続けるうえでは大きなモチベーションに繋がりますね。大森さんは現場で働く納棺師から今の立場に変わって、使命ややりがいに変化はありましたか?
大森さん:そうですね、現場に出ている時はご遺族様に喜んでいただけた時に一番モチベーションが上がったり、使命を感じていました。 ですから、本当は現場でずっと働いていたかったという気持ちはあります。 ですが年齢とともに現場で働くことが難しくなったりする中で、じゃあ次は何ができるかな?と考えました。 その時に、今まで経験してきたことを次の世代に伝えていくことが、これからの私にとって一番大切なことではないかと思ったんです。 ただ、繰り返しになりますが、私は納棺師としてい続けたかったんです。他のお仕事に就きたいとは思わなかったですし、納棺師を続けたかったので、やり続けるためにも次の世代に伝えるという選択肢が残りました。

「現場で働きたい」も「キャリアアップしたい」も応援したい、納棺師のキャリアプラン事情

上舘さん:大森さんは研修講師というキャリアを選ばれましたが、そもそも納棺師として現場で働いている状態からキャリアプランを考えていくというのは、思っている以上に難易度が高いことのように感じます。
大森さんのように前職も含めて納棺師としてのキャリアがある方でも、今後どうするか?やりたいことをどう具現化するか?どう言葉に表していくか?というのはとても難しいことです。
ですので、キャリアアップということだけでなく、「ずっと現場にいていいんだよ」というキャリアがあってもいいと思っています。 次のお客様にはより良いものを、明日はもっと良いものを、来年はもっと良い納棺師になりたいっていう風に、日々の繰り返しの中で自分をコントロールできれば、納棺師として長く働くことはできると思いますから。

納棺師は職人気質なお仕事ですから、自分をコントロールするというのは大切ですよね。

上舘さん:そうなんです、ずっと誰かが見てくれているわけではないですから、納棺師として持っていなければいけない大切な気持ちやなんかを気づかないうちに忘れてしまうっていう社員もいるかもしれません。そこに対しては自分で気づくしかありませんから、最終的には自分との戦いだな、と思いますね。

将来のキャリアプランを考えるとき、大森さんのように「研修講師」としてキャリアアップ、キャリアチェンジしてデスクワークに挑戦、そのまま現場で働き続けてキャリアを積み重ねる人など、全ての人たちを応援できたらいいなと思いますね。

中途採用から新卒採用へのシフトは手探り状態からのスタート。NK東日本の採用についてお伺いします。これまでは新卒採用ではなく、中途採用が中心だったんでしょうか。
上舘さん:そうですね、実は数年前まで中途採用しか行っていませんでした。
新卒者向けの企業説明会などに出展する場合には、何か足を止めてもらうための出し物が必要です。ところが何を出せるかも分からないような手探り状態からのスタートでした。

ですが、当時すでに新人研修を担当されていた大森さんが新卒採用についても尽力をしてくださったおかげで、無事きちんとした形になりました。 例えば、大森さんはグリーフサポートという分野を非常に大切にされているんですが、そういったことをしっかりと伝えることができたのが、ここまで新卒採用を増やせた要因のひとつだったと感じています。
大森さん:教育制度が整ったことも大きいと思います。しっかり教育します!という姿勢を会社にとっていただいたので、より新卒採用の拡大につながったのかなと。

やはり、どういった姿勢で取り組む仕事なのかという事を伝えられたり、教育体制をカリキュラムとして組めたことでイメージが付きやすくなったのかもしれませんね。ちなみに今は、新卒入社の割合はどれくらいなんでしょうか。
上舘さん:年間で10名入社するなら、5名は新卒みたいな感じですね。
大森さん:以前よりも納棺師についての情報があるのかもしれませんね。納棺師の認知度が上がったのか、事前に知ったうえで申し込んでくれる方も増ええたように感じます。

やはり納棺師を最初から希望されている方のほうが、とりあえず応募だけしてみようかな?という方よりも、正式な応募に繋がることが多いのでしょうか。
大森さん:そうですね、やはり最初から納棺師として働きたいという想いが強い人の方が、実際の選考に進まれるケースは多いです。あとは誰かのお葬式に参列したときに、納棺師を見て、「こんなお仕事も良いな」と思ってきてくれた方が進むイメージです。

具体的にイメージができている人に説明会でもう少しイメージの補足をしてあげる、という感じなんですね。
大森さん:そうですね、新卒の方は特に心配なこともたくさんあると思います。 ですから、そういった心配ごとを少しずつ解消してあげることで、もともと納棺師を希望されている方も、より次の選考に進んでいただきやすくなるのかなと思います。

聞き上手が納棺師を制す!コミュニケーションの力が問われる現場のお仕事

採用に携わっていらっしゃる立場から、こういった人が納棺師に向いているな、と思われる傾向はありますか?
大森さん:やはり先ほどお話しした通り、コミュニケーションが上手な人が残るような気がしますね。技術職のようであって、サービス業なので、技術を学びたいという人よりは、人と接するのが好きな人の方が、スムーズにキャリアを積めている気がしますが…上舘さんはどうですか?

上舘さん:それはもう大前提になってくるな、と思います。 たまに「人と話をしなくてもいいお仕事なんじゃないか」とお考えになって応募されてくる方もいらっしゃいますが、ご遺族様や葬儀会社の担当者とお話をする機会はかなり多いですからね。

大森さん:技術職というイメージがすごく強いから、しかたないかもしれません。

上舘さん:とはいえ、ご遺族様の前できちんとお話しができれば十分で、日頃からおしゃべりが大好きな人が開花するかというと、そういう感じもしないんです。お話をしっかり聴いてあげられる方がいいのかな?と思いますね。

大森さん:そうですね!どちらかというと、話すのが得意な人が失敗してしまうというケースはよく聞くので、やはりしっかりと人の話を聴ける方の方が向いているのかな、と思います。

聴き上手な方の方が向いているのかもしれないですね。
上舘さん:そうですね。
実際の現場では、ご遺族様からお話を聴いた後にご提案をしますよね。その時に特にお願いしていないことや、聞いてもいないことをたくさんお話しされてもご遺族様は困ってしまいます。

大森さん:故人様のお姿をできる限り生前のイメージに近づけるためには、ご遺族様の印象を探っていく必要がありますから、心情に寄り添いつつお話をきちんと聴いて受け止めることは重要ですね。

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