株式会社花安 / 0から始めたクラフトビール作り。町おこしへの思いを語る。|葬祭ジョブ

インタビュー

掲載日:2023年6月8日

新潟県新発田市で、葬儀事業を行っている株式会社花安。
実はクラフトビールをつくる「月岡ブルワリー」という部門も存在します。
なぜ葬儀会社がクラフトビール?一体どんなビールを作っているの?美味しいビールをいただきながら、月岡ブルワリー発起人の皆様にお話を伺いました。


月岡ブルワリー 醸造責任者
新保 典司さん
日本酒ソムリエの資格を持ち、ご実家は酒屋を営む。
お気に入りのビールは「TSUKIOKA IPA」


月岡ブルワリー
三宅 晴香さん
月岡ブルワリーのビール醸造や、月岡ブルワリー併設のレストラン、キッチンGEPPOのメニュー考案を担当。
お気に入りのビールは「TSUKIOKA ヴァイツェンナチュラル」


株式会社花安 代表取締役社長
渡辺 安之さん
月岡ブルワリー発起人の一人。
キッチンGEPPOのお気に入りメニューは「月岡バーガー」。



温泉街のブルワリー!それぞれの特徴を聞く

本日はお時間を頂き、ありがとうございます!

さっそくですがこちらの「飲み比べセット」で楽しめる4種類の生ビールについて、それぞれの特徴を教えて下さい。

新保:左から「月岡エメラルドエール」、「月岡シトラス」、「月岡湯上りペールエール」、「月岡ヴァイツェンナチュラル」です。
通常であれば「月岡IPA」という定番ビールが入るのですが、今は品切れになってしまったため、代わりに「月岡シトラス」をご提供しています。

渡辺:私が一番好きなのは「月岡IPA」ですね、苦みは強めですがバランスが良く、クラフトビール感も味わっていただけるため、ビールがお好きな方に一番おススメです。
それに比べて、一番人気のある「月岡エメラルドエール」は、ビールが苦手な方も飲みやすい軽い飲み口に仕上がっています。

「月岡エメラルドエール」は、月岡温泉の色であるエメラルドグリーンをイメージしたビールで、ほんのりマスカットの風味が香るフルーツビールです。

実はブルワリーの立ち上げ準備段階では、月岡温泉の温泉水で作ったビールなんていいね、というアイディアもありました。

飲泉できる場所に「日本一まずい温泉」と書かれていました!
せっかくなので一口試しましたが、「日本一まずい」の看板に偽りはありませんでした笑

渡辺:飲まれたんですね!
そうなんです、本当にびっくりするほどまずい温泉なんですよ。
そんな温泉で美味しいビールができたら面白いと思ったんですが、企画した段階で温泉水を使用することが難しいということで、残念ながら断念することになりました。

その代わりに温泉の色をイメージしたビールを作ろう、というコンセプトから「月岡エメラルドエール」は誕生しています。

新保:こちらの「月岡湯上りペールエール」は、まさに王道のビールとして一番最初に作ったものです。
月岡ブルワリーの目の前には足湯がありますし、何より温泉街のビールですから、湯上りにぐいっと飲んでいただきたいというコンセプトなんです。
「月岡エメラルドエール」に比べると、苦みが比較的強い味わいになっています。

「月岡シトラス」は、その名の通り柑橘類のグレープフルーツを使用したビールです。レストランとテイクアウトのみの提供ですが、大変ご好評をいただいている一本です。
柑橘の後味が感じられるさっぱりとした味わいのため、フルーツビールでありながら様々な料理と合わせても美味しく飲んでいただけると思います。

渡辺:それから最後が「月岡ヴァイツェンナチュラル」ですね。

こちらはドイツ発祥の伝統的なスタイルで製造しているビールで、月岡温泉のコンセプトである「もっと美人になれる湯」にあわせ、自然発酵、無濾過にこだわって作っています。 月岡らしさを象徴したビールを作りたいと思って誕生したビールです。

こうした定番ビールの他に、限定ビールの製造・販売も行っています。

ブルワリーに併設されたレストランで人気の「3種ソーセージ盛り合わせ」。使用する食材はもちろん、食器類も地元のもの。
三宅:レストランで提供している料理も、素材は新発田市内の会社にお願いして作っていただいているものが多いんですよ。

人気の「3種ソーセージ盛り合わせ」は、新発田市にある株式会社越後ハムさんに製造していただいています。

食器類に関しても、鉄製品で有名な燕三条で製造しヴィンテージ加工されたものを使用しているんですよ。

月岡ブルワリーの外観がインダストリアル風なので、内装も含めてそのような方向でプロデュースしています。

写真左側がビールを醸造する工場部分。外から製造中のスタッフの様子やタンクが見えるガラス張りになっている。
様々な部分で地元企業や地域産業と協力されているのですね。
渡辺:ビールボトルのラベルも、新発田市のデザイナーさんにお願いしてデザインしてもらっています。
このデザイナーさんは、あるとき「こんな事業をやろうと思っている」と話をした際に「面白そうだから誘ってほしい」と言われたことがきっかけで依頼したんです。

本当に新発田市の様々な人に助けていただいています。
現在では地域の皆様にも愛されるブランドに成長できたと自負しています。


勘違いから始まった!?月岡ブルワリー誕生秘話

ではビールのご紹介に続き、月岡ブルワリー設立の経緯を教えて下さい。
クラフトビール造りは、葬儀社とは全く繋がらない意外な事業のように感じるのですが、どういったきっかけがあったのでしょうか。

新保:一番最初のきっかけは「寺町たまり駅」でお酒の販売をしたいとご相談をいただいたことだったと思います。
「寺町たまり駅」はもともと三宅さんが働かれていた施設ですね。

三宅:はい「寺町たまり駅」という道の駅のような施設があるのですが、5年くらい前に施設の管理を株式会社花安が請け負うことになりました。

この施設は、お祭りで使用する山車や、今の季節ならひな人形の展示などもしながら、お土産も買えて、ちょっとした美味しいものも食べられるという場所なんです。
そんな施設内で、地元で作られているお酒をお土産として販売できるようにしたい、という話が持ち上がりました。

新保:まずこのタイミングで、私の家業が酒屋だったことから力を貸してほしい、と渡辺社長から声をかけていただいたんです。

お酒を販売するには、専用の資格が必要なんですよね。
たくさん酒屋さんがある中で、新保様に協力を仰いだには何か理由があったのでしょうか。

渡辺:彼のお店は酒屋さんとしては珍しく、様々なイベントを主催していたんですよ。
地元のレストランや飲食店と協力して、ワインを飲む会や日本酒を飲む会を開いたりしていたんです。

こうしたコミュニティをすでに構築されている点など「このお店、すごく面白いな」と思っていました。新発田市でお酒にまつわる事業をするなら、パートナーは彼しかいないと感じていたんです。

一緒に面白いことが出来そうだなと思っていたので「寺町たまり駅」の話はチャンスだと思って声をかけました。
おかげさまで販売許可も下りたので、お土産の一つとして現在も地酒販売を行っています。

新保:それで最初のきっかけとなった「寺町たまり駅」は、もともとの立地が「寺町」と言われるだけあり、たくさんのお寺がずらっと並んでいる通りにある施設なんですね。
景観は趣があって、閑静でとても良い場所なんですが、やっぱりお寺って用事がなければなかなか行かない場所ですから、観光客を呼ぶにはちょっと寂しい一角だったんです。

そんな施設を盛り上げたい思いから、毎年6月に「寺開き」というイベントを行っているのですが、そちらのイベントで鎌倉の大仏にちなんだ「大仏ビール」というビールを数量限定で販売したんです。

この大仏ビールは湘南で作られているクラフトビールで、私が仕入れを担当して取り寄せました。丁度クラフトビールが注目されたタイミングだったこともあり、一日で完売するほど好評でした。

渡辺:せっかくだから「煩悩の数 108本限定!」とプレミア感をつけてみると、飛ぶように売れていきました。
お寺でお酒を飲むというのは背徳感もありますし、きっと売れるぞと思っていましたが、結果的に大成功でしたね。

そんな風にクラフトビールを販売していたら、新保くんが「これはクラフトビールで町おこしができる!」と言い出して、じゃあ作ろうという話になりました。 それはまた急ですね!
何故「クラフトビールで行ける!」と感じたのでしょうか。

新保:実は、イベント中にお客様から勘違いされたんです。
大仏ビールを購入された方から「新発田でもビールをつくるようになったんだね!」って声をかけていただいたんですよ。
それで新発田市にはクラフトビールの需要があるんだと発見したんです。

それにお酒は町おこしにも使えるだけでなく「うちの町で作っているお酒だよ」と地元を背負うことができるのも良いなと思いました。

確かに「うちの地元のお酒」というお話はすることがありますね。
新保:不思議なことに、お酒は地元を背負うことができる面白い飲み物です。
新潟は日本酒の製造が盛んですが、クラフトビールは物珍しさもあって良いんじゃないかとも思ったんですよ。

それから日本酒とは違い、原材料を選ばないのも良いと思いました。
日本酒は必ずお米が原材料になりますが、ビールは麦芽以外にも様々な材料を使うことができるんです。大きく違いを打ち出すことで、商品そのものの珍しさと魅力を表現できる飲み物だと思いました。

ビールに詳しくない私からするととても不思議ですが、本当に何でも材料にできてしまうのでしょうか。
三宅:極端な例でいえば、昆虫を使ってもビールは作れるんですよ。

昆虫ですか!最近話題になったコオロギとかでしょうか。
三宅:そうです。口に入れられるものならなんでも材料になります。
私も初めて知ったときは衝撃的だったんですが、自由に組み合わせることができるのは間違いなくビールの強みだと思いますね。

それに工場を作ることは産業の創出に繋がるよね、という話は渡辺社長も繰り返し言っていたことですね。

渡辺:新発田市は地方都市ですから、若い人はどうしても首都圏に出て行ってしまうし、地元経済だけでは発展し続けるのが難しい環境です。

以前から、新発田に新しい産業を生み出さないと、どんどん地域そのものが衰退していってしまうのではないかと思っていて、新しい産業を作りたいと考えていたんです。
ですから、ブルワリーを作ることは、そうした人材流出を防ぐことにも繋がるのではと思いました。

それに地元名産のお酒があれば、外からお客様を呼び込むカンフル剤としても効果を発揮してくれるんじゃないかとも考えました。

月岡温泉をはじめとする新潟県の観光地は、素敵な場所ばかりなんです。
でもちょっと宣伝が得意じゃないなと思っていたので、代表となるような目新しい名産品ができるのは悪いことじゃないと思いました。

なるほど。 こうしてブルワリー誕生に向けて、まず一歩進んだのですね。

成功モデルは「希少価値」+「地域密着」!ブルワリー立ち上げの第一歩

渡辺:お話したように、最初は勢いで始めよう!と言ってはみましたが、実際にブルワリーを立ち上げるにあたり色々と調べてリサーチを進めてみると、意外と失敗しているところが多い印象でした。

新保:多かったですね。
共通している成功モデルは「お客様の多い観光地で作ること」「規模を大きくし過ぎないこと」というものでした。

比較的小さな規模で希少価値を上げる方向で進めた方が、成功しやすいんですね。
渡辺:そうです。
それから材料に地元の良いものを使うことや、飲食店も併設した方が良さそうだということも分かりました。
小さな規模で希少価値を上げて一つ一つの商品を磨くブランディングが良いという結論に至ったので、月岡ブルワリーもこの方向性で進めることにしました。

飲食店を併設させるなら、寺町たまり駅でスタッフとして働いていた調理師の三宅がいるぞ、ということにも気が付きました。
彼女は調理師免許を持っていて、新メニューの開発なども担当してくれていたのでぴったりの人選でしたね。

ここでようやく渡辺様、新保様、三宅様の3人が揃ったんですね。
ちなみに三宅様はどういった理由から寺町たまり駅で働き始めたのでしょうか。

三宅:大学時代は東京で獣医学を勉強していたんです。
ですがその途中で挑戦したいことを見つけたので、新潟に戻って調理師専門学校に入りました。専門学校卒業後は、また新潟を出て飲食店のフランチャイズ店舗開業支援のお仕事をしていました。

ただ、この仕事がかなりハードで、体調を崩してしまうことも多かったんです。
それで地元の新潟に戻ろうと思っていた矢先、株式会社花安を知り合いに紹介してもらって入社することになりました。

当時は単純に「葬儀社なのに観光施設を経営するなんて、面白そうな会社だなぁ」と思って入社を決めたんですが、新しいことをどんどんやっていこうという姿勢にも惹かれました。 私自身も新しいものを考えることが好きだったので、シンパシーを感じたんだと思います。

ですから「ブルワリーを始めるから三宅も参加してね」と声をかけられたときも、まずワクワクしたくらいです。

ビールは微生物によって発酵が進み、飲み物として完成するのですが、その発酵の過程そのものも興味深く面白いなと感じています。
大学で微生物の研究もしていたので、回りまわってまた微生物のところに戻ってきて、色々な縁が繋がった結果という気もします。

そうだったのですね。
今は主にどういった業務を担当されているんですか。

三宅:ブルワリーが駆け出しのタイミングでは醸造の業務にも参加させてもらいました。
その後妊娠したため、アルコールも飲めないし醸造の仕事はかなり力仕事ですので、途中からはブルワリーに併設するレストランの立ち上げに携わりました。

去年の4月に産休育休から復帰してからは、ブルワリーと寺町たまり駅の管理業務や、外部とのやりとりなどを担当させていただいています。

ブルワリーの成長とともに、私自身のポジションも変化している感じですね。

レストランの新メニュー開発に特化されていたわけではなく、醸造も行っていたんですね。
三宅:そうですね、実はお酒が大好きというわけではなかったのですが、醸造にはとても興味がありました。そのためブルワリー立ち上げの際には、新保と一緒に醸造を担当させていただきました。
それに、ビールの味が分からなければメニュー開発も出来ないと思ったので、ビールのことも勉強したかったんです。

今振り返ってみると、メニュー開発も大変な苦労がたくさんありました。
常務の渡辺の方針で、シェフを置かず誰でもできるオペレーションを構築しようということになったので、それを前提としたメニュー開発は特に重要だったんです。
ですが大変だったと同時に、貴重で良い経験ができたなと思っています。

現状は調理師免許を活かした業務というわけではありませんが、結果的に地域活性化にすごく興味が湧いていて、視野がぐっと広がりました。

では今の醸造については、主に新保様が中心となって進めておられるのでしょうか。
ビール醸造に使用される大きなタンク。設置されている醸造所内はかなり蒸し暑い。また入室する前には「今朝納豆は食べていませんよね?」とチェックがありました。納豆菌を持ち込むと、ビール醸造に必要な菌が全滅してしまうのだとか…。
新保:そうですね、私が中心になって味わいを決めたりしています。
とはいえ、方向性はみんなで試飲して意見を出し合って決定していますので、ブルワリー立ち上げ当初から、葬祭部門の方々からもご意見を募ったりすることが多いですね。

ビールの味を決めるのは難しい作業ですが、同時に探求し続けられる奥深い世界でもあると思います。

味を決める際に大切にされていることはありますか。
月岡ブルワリーのビールは、流行を抑えつつ癖が無く飲みやすいものを目指しています。 これは観光地で提供するクラフトビールだからという理由があります。

いくら流行していても、クラフトビールはよく分からないという方や、飲んだことが無い方が大半です。ですから、まずは無難に飲みやすいことが大切だと考えています。
せっかく飲んでいただいたのに癖が強くて美味しくない、と思われてしまうのはとてももったいないことですからね。

確かに観光地ですから、一発勝負という一面はありますよね。飲みやすさはとても大切な要素なんですね。

3割を超えれば多数派!葬祭部門も巻き込んだ立ち上げ期

葬祭部門も巻き込みながらのスタートとのことでしたが、立ち上げ当初は反対も多かったのではないでしょうか。
渡辺:もちろん賛否ありました。
特に長年勤めてくれていた年長の社員からは「俺たちが稼いだお金でなんか変なことやってるぞ」なんて思われていたんじゃないでしょうか。

ただ葬儀部門の改革などを進めた経験もあったので、組織をどう動かせばいいのか以前より理解できていた時期だったのは良かったですね。

そこでまずは、葬祭部門の社員たちを巻き込むところからスタートしました。
特にビールが好きという社員には仕込みをしたビールの味見をお願いしたり、店舗で使用する家具作りを手伝ってもらったりしたんです。

それから、なぜビール事業をスタートするのかについても、熱心に共有するように心掛けました。

具体的にはどんなお話をされたのでしょうか。
渡辺:葬儀は気持ちをマイナスからゼロに戻すために必要な仕事だと考えているんです。
やりたくて葬儀をする人はいませんよね。何度も同じ人の葬儀をすることはありませんし、お墓も同じようにいくつも欲しがる人はいません。

大切な人が亡くなってしまったという気持ちに区切りを付けるために、仕方ないからやろうという人が大半だと思います。
どんなに頑張っても気持ちが戻るのはマイナスからゼロまでで、プラスに進むことはありません。

ところがビール事業は違います。
観光にとっても、地域経済にとってもプラスになりますよね。
ビールを飲んで楽しく過ごせれば、気持ちもプラスの方向へ傾いていくものです。

マイナスからゼロへ向けた不安の解消を行う葬儀事業と、人生を豊かにすることへ貢献できるゼロからプラスへ向けたビール事業を2つの軸として展開し、きちんと収益化もしますという話をしました。

また、当社の理念として大切にしているものに「人との縁」があります。
葬儀事業は過去の縁を改めて感じることができますが、ビール事業はこれまでの縁と新しい縁を結ぶ事業になっていくことができるとも訴えました。

これまではライフエンディングに向いていた事業の軸を、ライフそのものへ向くように転換していったわけですね。
渡辺:そうです。
そのおかげで社員からも「そういうことね」「だからやるんだね」と納得してもらえるようになりましたね。

葬儀事業をやっていると、やはり孤独な中で亡くなる方を目にすることもあります。
本当に最期、たった一人で死んでいくのは本当に悲しいことだと常々感じています。
だから、地域を盛り上げることと一緒に、孤独な人を減らしていきたいと以前から考えていました。

長生きしている人は、お酒をいっぱい飲まれたり、タバコを吸ったり、美味しいものをたくさん食べたり、人生をとにかく楽しんでいる方が多いですよね。
ですから、こうした人生を楽しむひとつのツールを作ることが出来たら、孤独な人を減らす助けにも繋がるんじゃないかと思いました。

お酒は一種のコミュニケーションツールでもありますよね。誰かと一緒にお酒を飲んだり、ギフトとして贈ったりされることが多いのもお酒です。
こんな風にお酒の良い面を存分に活用して、たくさんの人にプラスを届けたいですね。

新保:最初に私が「ビールを作ろう」と言い出した時は、正直かけ離れすぎているかな?とちょっと心配だったんですが、繋がりが見いだせて安心しました。

三宅:寺町たまり駅の時も「接客の時にはたくさんお客様と話して、積極的に縁を作ってほしい」と言われていたので、ずっと共通した理念があるのだと感じます。

渡辺:個人的には親和性が高いぞ、と最初から感じていたんですよ。
だからもしも、バームクーヘンを作ろうって言われていたら断っていたと思います。バームクーヘンが悪いというわけではありませんが、ビールの方が当社の理念との親和性は間違いなく高かったですね。

すでにお話したように、新発田市は地方都市で産業が少なく、経済規模も決して大きいとは言えません。
経済がどんどん小さくなっていった結果、真っ先にお金が使われなくなるのは冠婚葬祭業だとずっと考えていました。だからこそ、地域の経済を守ることは将来的に当社の葬祭部門を守っていくことにも繋がるはずです。

緊張とプレッシャーのオープン前と、オープン後の反響く

お話のように葬儀部門の方も巻き込んでスタートした事業ですが、新保様が挑戦をされた大きな決め手は何だったのでしょうか。
新保:やはり酒の小売業をやっていますから、自分が作ったものが自分の店で販売できれば特別な商品になると思ったんです。
限定のブランド品も出せますし、ご当地酒屋の限定ビールを作れれば、地域貢献もできて、自分の家族のためにもなるなと考えました。

そんな風に考えて醸造に携わることを決めたのですが、実際に醸造がスタートしたらものすごく不安になってしまって、5キロ以上痩せてしまいました。

やはり最初はドキドキしますよね!
新保:そうなんです。
しかもクラウドファンディングでスタートアップ資金を募ったのですが、100万円の目標に対して300万円も集まったんです。
それだけ地域からも期待されているんだと思うと、本当に怖くなりましたね。

渡辺:最初はクラウドファンディング参加者が増えるたびに「やった!また入った!」と喜んでいたんですけどね。

新保:そうそう、オープンが近づくにつれて本当に大丈夫なのかな?と不安は強くなりました。これだけ期待されているのに、期待外れのビールしかできなかったら本当に怖いなと。
それに立ち上げたあと、お客様が来てくださるのかも不安でしたし、町の人達が受け入れてくれるのかという不安もありました。

やっぱり変なことをすると後ろ指を指されるなあと思うこともありますからね。失敗できないというプレッシャーは強かったです。

そのようなプレッシャーの中で醸造を進めるのは並大抵ではなかったと思います。
お酒素人の疑問ですが、ビールと日本酒は同じお酒でも全然違うものに感じます。日本酒ソムリエとしての知見や経験が生きる部分はあるのでしょうか。

新保:日本酒造りも結構見て回った経験があるので、やはり通ずるものはありましたね。
たとえば品質管理については共通する部分があり、入っていきやすかったです。

ビール造りは独学で学ばれたのでしょうか。
新保:栃木県に有名なブルワリーがあって、そこに2か月ほど修行に行って学びました。
コロナ禍の真っただ中だったので、アパートとブルワリーの往復しかできず、人生で一番ビールのことを考えていた2か月だったかもしれません。

その後もあちこちのブルワリーをたくさん見学させていただいて、岩手県でも研修を受けさせていただきました。

渡辺:新保くんにはこうしてみっちり勉強してもらいましたが、やはりオープンするまでは本当にドキドキでした。三宅さんにも新保くんと一緒に何か所か研修に行ってもらったので、二人は本当に大変だったと思います。

ただ、不安だなと思っていた矢先に、一つ目のビールである「月岡湯上りペールエール」をバン!と出してくれたので「これは行けるぞ」って安心したことをよく覚えています。

新保くんがすごいのは、師匠の教えを忠実に再現できていたことだと思います。
何度か彼の師匠が月岡まで来て指導してくれたりもしましたが、使っている器具も全く違いますから、なかなか全てを忠実に再現するのは難しいはずなんです。

新保:ありがたいことに醸造の際の裏技みたいなことも教えて頂いたりしましたね。

三宅:人徳というか、まさに彼の人柄のおかげですね。

実際にブルワリーがオープンしてからの反響はいかがでしたか。
新保:インターナショナルビアカップという大会で、2021年には「月岡ペールエール」が、2022年には「月岡IPA」がそれぞれ銀賞を受賞しました。

この大会は世界でも3番目に長い歴史を持つビールの品評会で、どちらもその年の部門別最高賞を獲得できたんです。

金賞に届かなかったのは悔しかったですが、コツコツ積み上げてきた醸造技術を国際的に評価していただけたのは嬉しかったですね。

それから、ミシュランガイドの星を獲得されたシェフたちがコース料理を提供するという豪華なイベントがあったのですが、その際に「月岡エメラルドエール」を食前酒としてご提供させていただきました。味わいはもちろん、エメラルドグリーンの色合いも好評でした。

醸造をスタートした時は「月岡湯上りペールエール」が一番の人気商品になると思っていたのですが、蓋を開けてみると「月岡エメラルドエール」の評判がすごく良かったのは意外でした。

ナチュラルなグリーンカラーも綺麗ですし、ビールが苦手な人でも美味しくいただけそうな味が評判に繋がっているように思いますね。
渡辺:確かにそうかもしれませんが、何よりも月岡の人たちが「ご当地の名品です」と推してくださるようになったのがとても嬉しいです。

月岡温泉をイメージしていて、ラベルも月岡の名前から着想を得た満月のデザインですから、贈り物などコミュニケーションの潤滑油としてもご活用いただいています。
こうした評価は、実際にここまでやってみたからこそ分かったことなので、本当に挑戦して良かったと思います。

渡辺:月岡温泉は、温泉街としての歴史がそんなに長いわけではなく、開湯は大正時代に入ってからです。発見されたきっかけは石油を探していた時にたまたま見つかったという、一風変わった温泉なんですよ。

新潟県を代表する温泉街ではありますが、バブルが弾けた際に旅館の3分の2が廃業してしまい、温泉以外何もないと言われてしまうくらい温泉街も寂れていました。

そこで開湯100周年に合わせ「歩きたくなる温泉街」をモットーに、新しい施設やお店をオープンしたり、その後も地元の若手実業家が中心となって、リノベーションや環境整備に取り組んでいました。

こうした流れの中、新しい産業としてブルワリーを立ち上げて、良い結果にも繋がり始めていることは本当に幸運だったと思います。

ありがとうございます。

スタートは地域支援。月岡ブルワリーが目指したことと、これから目指すことく

キッチンGeppo内で販売されている月岡ブルワリーグッズ。ロゴマークにも、ラベルと同じく満月のマークが付けられている。
ブルワリー併設のレストランは変わった名前ですよね。
「キッチンGeppo(ゲッポ)」という名前には、どういった意味が込められているのでしょうか。

渡辺:絶えず進化していきたいという意味を込めて、日進月歩からモジりました。
また月岡温泉には「歩いて楽しめる温泉街」というテーマがあるのですが「月歩」は月に歩くと書きますよね。月岡温泉の名前にも通じる言葉ですから、そういった意味も込めています。

それからもうひとつ、新発田弁で「げっぽ」とは最後尾とか一番最後という意味なんです。私たちが月岡温泉を後方支援するぞ、という意味も込もっているんです。

あくまでも月岡温泉が主役であって、私たちは主役じゃないんです。月岡というブランドを底上げする存在になりたいという想いを込めた名前ですね。

レストランの名前ひとつとっても、地域の活性化に協力したいという想いが込められているんですね。
渡辺:そうですね。
でも地域活性化もボランティアではなくビジネスのひとつです。
売れない商品を作っても仕方がないわけですから、マーケティングをしっかりして、売れるものを作っていこうという点は譲れないんですよ。

私たちが「こんなビールを作りたい」と考えて、そのまま販売しても絶対に売れない自信があります。(笑)

何を作ろうとするのか、逆に気になってしまいますが…(笑)
確かに「俺のビールを飲め!」みたいなものよりは、ある程度流行に乗っていくことは大切かもしれないですね。

新保:はい、職人的な人にとっては一番苦手なことでもあると思うんです。
もちろん好きなものを作った結果、お客様が来てくだされば最高です。ただ、これはなかなか難しいことですよね。

だから、月岡に来るお客様は一体何を求めているんだろう?ということはすごく考えました。たくさん話し合いもしました。

渡辺:その結果たどり着いた一つの答えが、温泉上がりにみんなで楽しめるものであるということ。「湯上りペールエール」ですね。

それからお土産需要がありますから、お土産で買っていただけるように月岡らしいパッケージを考案しました。
温泉の色をイメージした、エメラルドグリーンのおしゃれな箱を準備して、そのままお土産として渡してもいいし、贈答用パッケージとしても使っていただけるようにしました。

重たい瓶の商品ですから、普通のビニールで持って帰るより手も痛くなりにくいし、色も素敵だねと褒めていただけることが多いですね。

それぞれは些細なことですが、ひとつひとつ話し合って決めた事が功を奏して、結果的に今の支持に繋がっているのだと思います。
協力してくれた新保くんや三宅さんはもちろん、ついてきてくれた社員達には感謝してもしきれません。

では最後に、これから月岡ブルワリーが目指すこと、目標があればぜひ聞かせてください。
新保:インターナショナルビアカップで2年連続銀賞受賞だったので、次こそは金賞を受賞したいですね。
2年とも金賞を受賞したビールが無かったため、その年で一番美味しいビールというご評価をいただいたのは確かです。

でもせっかくなら金賞がいいですから、さらなる高みを目指したいと思っています。 月岡の名前がもっと世界で有名になってほしいです。

三宅:日本国内で名の知れたブルワリーに成長したいですね。
今は瓶での販売ですが、缶での製造ができるよう新しい機器の購入も検討しているところです。

瓶に比べて缶の方が軽いですし、割れる心配もありません。全国の皆さんに手に取っていただきやすい価格にもできるんじゃないかと思うので、月岡の名前をもっと知っていただくためにも進めていきたいと考えています。

渡辺:私はもっと大きく、ビールを海外に輸出して、新しい販路を拡大していきたいです。今、日本酒やジャパンウイスキーが海外でとても人気ですよね。それに続く、ジャパンクラフトビールの流行の波を作り出せたら最高だなと考えています。

日本国内だけでは需要も限られていますが、世界にはもっとたくさんビールを飲む国があります。そういった国で需要を獲得して、産業を拡大していきたいんです。

産業の拡大といえば、月岡ブルワリーの現在の醸造量ではなかなか供給が追い付いていないので、寺町たまり駅の近くに新工場を作って、見学もできてクラフトビールも飲めるお店が作れたらいいなと考えています。

皆さん大きな野望をお持ちなんですね!これからも応援させていただきます!

編集後記

実際に新潟県まで足を運び、現地でインタビューをさせていただきました。
感じたのは「地域を盛りあげたい、もっと活性化したい」という地元愛!勢いでスタートした事業なのかと思いきや、その裏には綿密なリサーチやミーティングを重ね、導き出された顧客の求める商品がありました。

歩いて楽しめる温泉街という評判通り、ゆっくりと見て回れる程よい規模感と、静かな雰囲気の中で飲むビールは格別の美味しさに違いありません。

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株式会社大原セレモニーハート
2021/12/20
葬祭ジョブを利用して入社されたHさんにお話しを伺いました。
株式会社大原セレモニーハート
2021/12/20



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