株式会社花安 / 教師から老舗葬儀社の後継者へ。改革と挑戦の日々を振り返って。 2ページ目|葬祭ジョブ

インタビュー

掲載日:2023年6月8日

今回のインタビューは、新潟県新発田市の株式会社花安 渡辺社長です。
葬儀社だけでなく、ブルワリーを経営されるなど幅広い事業を手掛けられているのが特徴の同社。
渡辺様が考える地域密着とは何なのか?詳しくお話を伺いました。


株式会社花安
代表取締役社長 渡辺 安之さん
高校教師から家業である葬儀社での葬祭ディレクターに転身。
葬儀に囚われない様々な事業に挑戦している。



学んだことを活かしたのは評価制度。オープンな関係性が継続のカギ?

MBAを取得されるにあたって、様々な勉強をされたと思います。
そうした勉強が特に活きたと感じる部分はありますか。

渡辺:社員の評価制度を設けたときですね。
様々な新しい取り組みの中で、導入時に1番賛否が分かれたのも評価制度でした。

頑張ってお給料を上げたい人と、お給料はそのままでいいからほどほどに働きたい人がいます。ほどほどに働きたい人には「無理はしなくていいよ。その代わりお給料も下げさせてもらいますね」。頑張ってお給料を上げたい人には「評価に応じた還元をしますね」というように、給与が決定される理由が見える「オープンな関係性」にした方が、長く社内で使用できる評価制度になると考えました。

どんな評価制度を取り入れても、必ず不満は出てしまいますから、少しでも満足してくれる人が多い制度を取り入れて、幸せな人が増えることを意識しました。

確かに、人によってどんな風に働きたいのかは差がありますね。
具体的にはどのような評価制度なのでしょうか。

渡辺:まず社員自身が自分の目標を設定します。その後3人の上司で1人の社員をサポートしていく形になっています。これが個人目標です。

それからチームの部門目標も設けています。個人目標だけを設定すると、どうしても社員間でお客様の争奪が始まってしまいます。
そこで、チームでこれだけ成績が上がれば、その分チーム全員にポイントが付きますよ、というルールを定めているんです。

それともう1点、1時間当たり社員みんながどれくらいお金を稼いでいるかを平均化し、その金額が上がればポイントが上がりますし、下がればポイントが減っていきます。

こうした仕組みを作るうえで、MBA取得時の勉強が活かされたんですね。
渡辺:そうなんです。
ただMBAを持っていても、経営に関することの全部が分かるわけではありません。
ですから、知識や情報をコンサルタントに補ってもらって、今の形に落ち着いています。

実は依頼するコンサルタントに関してもちょっとしたこだわりがあります。
まずひとつは忖度しないということ。契約を切られてしまうから助言しないというような方には依頼しません。こうしましょう、ああしましょうと発破をかけてくれる人がいいですね。

それから、分からないことは分からないとはっきり明言してくれること。
「この分野は任せてほしいけど、こちらは分からないから依頼しないでね」と言ってくれる方がいいです。

そしてもうひとつ重視しているのは、コンサルタントの背後にコミュニティがあることです。私に知らないことがあるのと同じように、コンサルタントも1人の人間ですから、勉強することができる土壌があったり、たくさんの企業と繋がっている人は、より優秀な方だと思うんです。

つまり、コンサルタント自身の能力だけでなく、そのコンサルタントが惹きつけるコミュニティや情報がとても大切だということです。
ですから、そういったコミュニティに参加して、情報交換ができるようになれたら理想的ですね。

MBAを取得した1番の強みは、こうしたスキルを持ったコンサルタントを見極める力が身に付いたことかもしれません。

確かに経営者としてはとても大切な力かもしれませんね。
評価制度を運用するうえで大切にされていることはありますか。

渡辺:「好きなこと、やりたいことをやったらいいよ」ということは大切にしています。
ですから自分で目標を設定するスタイルにしていますし、そのおかげでやりたいことをやってもらえるシステムになっていると自負しています。

端的に言うと、自分の好きなことができる、自分で考えて行動することができる組織を目指しているんです。

とはいえ、好きなことばかりをやりたい放題やってしまうと変な方向に向かってしまいます。ですから「こういう戦略で行きましょう」ということはトップダウンで共有し「戦術はみんなで考えて欲しい」というように、ボトムアップとの融合をしています。

私は社員に対して、このような環境を「自分の能力開発に活かしてほしい」と思っています。自身の将来に繋げて欲しいんです。

社員が当社で働き続けてくれるのが理想ですが、ライフステージの変化があれば退職する人も当然います。その時に、他の会社でも活躍できるように実力をつけておかないと困ってしまいますよね。

だから自分達で考えて、自分の能力を開発して、自身で培ったものがちゃんと年収にはね返ってくるような良い企業に勤めてもらいたいなと思っています。

社員それぞれが1番好きなことで、生活を充実させたり、豊かな人生に繋げてほしいと考えておられるのですね。
渡辺:そうです。
20代の時には「あの人すごいよね」って言ってもらえて、30代には「この分野ならこの人」、40代になったときには「この会社に〇〇さんあり」って言われるような、年齢に応じたスキルを獲得していってもらうことが大切だと考えています。

ありがとうございます。

社風を変える!制度も変える!改革への挑戦

今はこうして社員のみなさんがそれぞれ活躍されていると思いますが、渡辺様が入社された頃の社風はどうだったのでしょうか。
渡辺: 当時は社内の雰囲気があまり良くはありませんでしたが、それぞれの社員がお客様に対しては真摯にひたむきに対応しようという意識はありました。ですから、そうした考えは大切にしながら雰囲気を変えていきたいと思いました。

ご依頼も多く忙しかったため、まずは若い人をたくさん採用して、そうした良くない雰囲気を薄めていくことから始めました。

新しい社員がたくさん入ってきて、その人たちが育ってくると、もともといた社員の負担も軽くなっていきます。そうすることでだんだんと雰囲気そのものが変わってきました。
ちょっと強引ではありますが、こうして企業文化を少しずつ変えていったんです。

ハード面の充実も大切ですが、最後はソフト面、マインドの部分が重要ということですね。
渡辺:そうですね、やはりハード面は大きな会社には勝てません。
そこで当社の強みを考えてみましたが「人材」については間違いなく勝負できると思いました。もちろん様々な環境で頑張ってきた人や、考え方の違う人達の集まりですから、衝突することもあります。

ただ、最近はそういった課題を解消して、うまくつなぎ合わせることが経営者の役割なんじゃないかな、と思うようになりました。社員同士では解決できないことの壁を取り払っていくイメージですね。

ハード面はある程度整備したり用意することが出来ますが、マインドの部分は育てていかないといけないですもんね。
社員のマインドを育むうえで、経営者として心がけていることはありますか。

渡辺:人を変えようとしないことです。
誰かに対して「あなたの考え方は間違っている」とは絶対に言わないことですね。

お互いに言っていることは分かるけど、それでも理解してもらえないことって多いですし、お互い嫌な気持ちになってしまうので、人を変えようとすることはやめました。
それよりも、お互いの考えが違っていても、うまく回る仕組みを考えるようにしています。

一例ですが、放置自転車がたくさんあってすごく汚い街ってありますよね。何度撤去してもまた新しく放置自転車が増えていくこともあります。

そこで自転車を並べやすいように、斜めの白線を引いたそうなんです。
そうしたら、これまではゴチャゴチャに止められていた放置自転車が、きれいに白線に沿って駐輪されるようになったそうです。

このように、みんなが自然と動いてくれるような人間心理みたいなものを覚えて、活用していきたいと思っています。
最適解というか、最大公約数のようなものを模索しつつ、協力してくれる人や、やりたいと言ってくれる人から抜擢して、その雰囲気を少しずつ広げていくのが肝だと思います。
少数派も3割になれば、多数派になれますからね。

やりたいと言ってくれた人を中心に、徐々に広げていくわけですね。
渡辺:そうです。そういった取り組みの繰り返しですね。
それでも最終的に7割8割まで到達するか?というと、それはまた別の話で、どれだけ多数派が増えても参加しない人はいます。
組織の意見に忠実に動く人は、2割から3割と言われているから、仕方ないかもしれませんね。

262の法則ですね。
渡辺:おっしゃる通り、2割は忠実に動いてくれますし、6割も追従はしてくれます。
そして残りの2割はなかなか動いてくれないことが多いんですが、あることに気が付いたんです。
それは、この262の割合は定まっていないということです。

定まっていないというのは、どういうことでしょうか。
渡辺:先ほどお話した「月岡ブルワリー」で製造を担当している社員はもともと葬儀事業にいたんです。ところがコミュニケーションが苦手で、接客も得意ではありませんでした。

葬儀事業にいたままでは社員の良さも発揮できないと考え、ブルワリーの製造スタッフとして異動してもらったのですが、結果的には大成功でした。 表情が明るくなりましたし、他の社員からも「雰囲気が変わってすごくいい」と好評なんですよ。

このように、輝ける場所というのは人それぞれ違うように、262の法則も場所や状況や仕事内容が変われば入れ替わるんだという事に気が付いたんです。

こうした経験を経て「この人の得意不得意はなんだろう?」と考えるようになりました。
どこかで失敗をしても、また再起を図って別の場所で活躍できるような、社員を見捨てない会社でありたいですね。

ありがとうございます。
様々な工夫をしつつ、評価制度や社内の雰囲気を変える取り組みをされてきたことが理解できました。
ですが、こうした取り組みは苦労が多そうですね。

渡辺:そうですね、何より大事なのは経営者が折れずに継続すること、飽きないことだと思います。
以前、コンサルタントの方に、評価制度を導入した後によくある失敗事例を聞いたんです。そうしたら、しばらく変化がみられないと皆さん諦めてしまって、大体はまず経営者が止めてしまうそうです。

そこで、当社の評価制度は、それ自体は良くできていると思っていたので、上手に運用ができるまで、とにかく続けることを大切にしました。

それから、長く継続するためにも、この制度の運用に社員も巻き込んで、社員にもきちんと評価が見えるようにしました。
実際にこうしたことをやってみて、あまり自分の手元に置きすぎるのも良くないということを学びました。

ある程度まで運用が浸透したら、あとは手放して社員に委ねることも、制度を根付かせるためには重要なことかもしれません。

採用で大切なのは「共感」「晩成」「関係性」

貴社は若手の採用に力を入れておられる印象があるのですが、採用についてはどのようなこだわりをお持ちですか。
渡辺:実は採用にあたって年齢はそんなに見ていないんですよ。60歳以上の方も採用していますし。年齢よりも、当社の色に合う人、理念に共感して理解してくれる人かどうか、ということを重視しています。

それから、社内・社外問わず、信頼関係がきちんと構築できそうな人だな、と感じられるかどうかですね。
入社後に何かミスが起こったとしても、上司と信頼関係が築けていれば、その報告も早いでしょうし、自然とお客様への対応も早めることができます。

結果的にミスをした社員にとっても会社にとっても、良い結果につながることが多いはずですから、正しい関係性の構築ができる人かどうかも、採用における重要な要素の1つだと考えています。

後は、自分で考えることが出来るかどうかはあまり問いません。ほとんどの人は入社後に仕事を通じて考えて行動が出来るようになります。
ですから、教育に時間やコストが多少かかったとしても、これらの点をクリアしていて、晩成しそうだな、活躍してくれそうだな、と想像ができれば採用するようにしています。

ありがとうございます。
では最後に、貴社の今後のビジョンを教えて下さい。

渡辺:地域の複合企業体でありたいと思っています。
それぞれの事業同士がシナジーを起こし合えたら最高ですね。
ひとつひとつの事業が拡大路線へ向かなくても、十分に食べていけるモデルケースになれれば、様々な人や会社を勇気づけられるのではないかと思っています。

当社が同じエリアで長年経営してこられたのは、変化を続けることが出来たからだと考えています。もちろんひとつひとつの変化はとても大変ですし、ひとつが立ち行かなくなると全体に影響してしまいます。

ですが、いくつかの事業を生み出してシナジーを起こすことで、リスクも分散できますし、こうした多角展開がお客様のためになるなら、ひとつの事業にこだわらなくてもいいと思うんです。

「私たちはライフエンディングだけでなく、豊かに暮らせるようインフラを整えよう」と表現しているのですが、このようにいくつもの事業を起こして地域に根差していくことが理想です。

もちろん、こうして様々な事業を展開するときも、変わらないもの、変えてはいけないものは必ず存在すると考えていて、それが当社にとっては人とのつながり「縁」なんです。
これからも「縁」を大切にしていきたいですね。

最後に、社員にはみんなで楽しくやっていきましょうってことは絶対に伝えたいです。
お互い嫌な部分があったりするのは当然なんですが、明日絶対に死なないなんて誰にも分かりません。
それならみんなで毎日楽しく、幸せに生きられるような地域、社会、会社を目指したいんです。

そのために、みんなで一緒に頑張っていきたいと思っています。

ありがとうございます。
ちなみにもしも今後新しい事業を始めるなら、どんな事業を起こされたいですか。

渡辺:新規事業の立ち上げも良いですが、それよりもまず社員と海外視察旅行に行きたいですね。
今はブルワリーのビールを輸出することを考えていますから、まずはそちらから進めて、月岡ブルワリーで作ったビールを納品している海外のパブやバーに行って「ほら!うちのビールだよ!」って見に行ったりしたいですね。

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