インタビュー
掲載日:2022年12月19日
今回インタビューにお答えいただいたのは、東京都・神奈川県を中心に海洋散骨サービスを提供されている、株式会社マリンメモリーの菅村様。まだまだマイナーな供養である海洋散骨とはどんな供養なのか?海洋散骨事業の立ち上げから、散骨業界の現状と今後について貴重で興味深いお話を伺う事ができました。
菅村:実は海洋散骨は、日本において古くからおこなわれていた供養の形だったようで、平安時代には散骨が始まっていたそうです。元来はインドで始まったと言われていて、今でもガンジス川に亡くなった方のお遺灰やご遺体を流す風習が残っています。
ただ、そうして広まった散骨の文化も、江戸時代に入ってから大きく状況が変わりました。当時、檀家制度が強化され、お寺にお墓を作るようになったためです。
そうした状況もあって、日本人にとっては散骨という供養の方法が縁遠くなってしまったと考えられています。
ある意味で先祖返りといいますか、原点回帰している供養の方法なんですね。
檀家制度が広がったのは、キリシタンを排除するためというのは日本史の教科書に載っていましたね。
菅村:そうですね。
そういった思惑から、お墓を作らなきゃいけない、日本での供養は火葬してからお墓に眠ってもらわなければならないという流れにのまれて、散骨が廃れてしまいました。
ところが、また時代が変わってきて「檀家制度って何なの?」という疑問が現代の皆さんには広がりつつあり、 そういった時代の流れもあって、今また散骨が注目されてきているようです。
海洋散骨に限らず、様式に縛られないお別れが増えているのも、そういった流れの一つではないでしょうか。
ありがとうございます、とても勉強になりました。
菅村:私自身が、お墓に関する悩みを抱えていたことが大きなきっかけですね。
今後両親が眠るお墓を守っていかなきゃいけないですが、自分はどこに入るのか?と考えることがよくありました。
お墓は維持費もかかりますし、今後誰に管理をお願いするかということも問題だったんです。
色々と考えたり相談した結果、我が家ではお墓を今後維持し続けるのは難しいという結論に至りました。そこでお墓以外の供養の仕方を色々と調べていくうちに、海洋散骨という供養を知りました。
それまで私は、結婚式のお仕事を長く行っていました。
これから結婚をする方も、人生の終わりを迎えようとしている方も、それぞれ人生においてハイライトがあるわけです。そうした人生の大きな出来事に対して、私にできることは何か?という思考がもともと根底にあったため、「海洋散骨」も事業としてスタートさせることになりました。
結婚式ではひとつひとつの瞬間を大切にする事が重要です。そうしたサービスを提供してきたノウハウを、海洋散骨を行う際にどのように活かしていくのか、という事を考えるようにしています。
人生のハイライトという意味では、結婚式も葬儀も同じかもしれませんが、異なるところも多いですよね。事業を立ち上げる中で苦労されたこと、印象に残っていることなどはありますか?
菅村:一口に海洋散骨を始めるといっても、それまで葬祭関係の業界については全く知識がなかったので、本当にゼロからのスタートになりました。 葬儀についてのルールを学ぶところから始めなければならなかったことは本当に大変でした。
それからもう一つ、海洋散骨ですから海のルールを理解しなければ、このお仕事に携わることはできません。ですから、この二つを勉強するところからスタートしました。
そこでまず、散骨することを、公的機関が合法と認めているわけではないということを知りました。
菅村:そうなんです。
合法ですと言われたわけではありませんが、違法というわけでもありません。
これを理解したことで、先々、海洋散骨が違法になってしまわないように対策が必要だと考えました。
ですから、周囲の方々に迷惑をかけない、不快な思いをさせない、そして安全であること。そういったことをすべてクリアしたうえで、故人やご遺族の方々に満足していただける散骨を実現するためのルールが必要だと感じていました。
そのような中で全国海洋散骨船協会が、海洋散骨に関するガイドラインを作っていることを知りました。協会の掲げる理念や考えに共感できる部分が非常に多かったので、私達も協会の一員として加入させて頂いた次第です。
国が定めたものではありませんが、ガイドラインから外れたことをして「散骨は違法です」と国から言われることがないようにしましょう、というのが協会の設立目的でしたから、私の考えていた必要なガイドラインと合致したんです。
そうなんですね。ガイドラインにはどういった内容が盛り込まれているのでしょうか。
菅村:例えば海に撒くご遺骨は、必ず粉骨をしなくてはなりません。大きさも決まっていて、2ミリ以下で、しっかりパウダー状にする必要があります。
また、散骨を行う際に、ご遺骨だけで海へ流そうとすると、風が吹いたときにどこかへ飛んで行ってしまいます。ですから紙に包んで流しますが、その時に使用するのは水溶性の用紙でなければなりません。
これが散骨の際に使用している水溶性の紙です。
こちらには故人様に向けてお手紙を書いていただくこともできます。
海でお仕事をするわけですから、海へ迷惑をかけないようにすることも大切にしています。
そうなんです。 ただ、このとおり水であっという間に溶けてしまいますから、雨の日の散骨は大変です。手元で紙が溶けてしまわないように、しっかり守ってから散骨しています。 あとは、散骨する場所についてもある程度ルールがあります。
陸から船が見えて「あ、散骨しているな」ということが分からない距離まで移動しないといけません。
また、散骨の最後に鐘を鳴らしたりすることがあります。その音が陸まで聞こえてしまうと「お葬式やってるのかな?」と思われてしまう可能性がありますよね。
それからこれも当たり前のことですが、海水浴場や養殖場など漁業が盛んな場所を避ける必要があります。 ですから、しっかり沖の方へ出て散骨をすることも、実は大切なルールなんです。
そして、これまで協会として順守してきたことが、令和3年3月厚生労働省もガイドラインを発表され、現在の海洋散骨に至る運びとなりました。
ありがとうございます。とても勉強になりました。散骨事業を立ち上げるうえで印象に残っているエピソードはありますか?
菅村:エピソードではありませんが、リピーターやご友人からの口コミからご利用いただく方がおられることが驚きでした。
というのも、これまで主に行っていた結婚式を提供するサービスでは、リピーターやご友人からの口コミからのご利用というのはあり得なかったからです。
たしかに!結婚式の場合、ご友人と同じ会場を使用して挙式をすることは避けますね。
菅村:そうなんです。
ですから、ご友人やご親戚が利用されて、とってもよかったと伺ったのでお願いしようと思います、というご連絡をいただいたときはとても嬉しかったですね。
現状は葬儀会社さんからお通夜などが終わった後ご紹介をいただいて、それから予約をしてくださる方が多いです。ですがこうした口コミやリピーターの方も大切にしていきたいと思っています。
菅村:現在は、お墓に故人様を入れるというのが主流ですが、私のように代々お墓を管理していくことが難しいという方も増加傾向にあります。
そんな昨今、お墓を持たなくても故人様を供養できるのが散骨だと思うんです。
ですから、今後時代の流れも含め、散骨される方が増えていくのではないかと考えています。
お墓を建てるとなると、墓地や墓石の購入費だけでなく、維持管理費が発生します。ですから、散骨とお墓ではかかるコストに雲泥の差があります。
こうした長期的なコストがかからないという点も散骨の魅力だと思います。
また宗教や形式に関係なく供養ができるというのも、大きなポイントだと感じます。
それから散骨が今注目されている理由の一つに、お子様がいらっしゃらない方や、独身の方が増えているということもあるのではないかと感じます。 例えば「独身だったおじさんが散骨を希望されていた」という理由でお問い合わせをいただくこともあります。
なるほど。今、独身の方からもご依頼があるとおっしゃっていましたが、そのように生前から故人様本人が希望される場合が多いのでしょうか。それともご家族の希望が多いのでしょうか。
菅村:実は生前のご予約は本当にたくさん頂戴するんですよ。その場合、約9割はご本人の希望です。海がお好きであるとか、もともとご自身の散骨を強く希望されている場合がほとんどです。
そのような場合、先ほどお話ししたように、その方にはお子様がいらっしゃらず、お墓に入る予定もないというケースで、終活の一環としてご予約を頂くことが一番多いですね。
確かに独身の方が、ご自身の終活の一環で来られるというのは想像できます。
菅村:そうなんです。ところがご予約を頂いたとしても、その方が亡くなられた時に、誰が亡くなったことを当社に連絡をしてくれるのか?ということも問題になります。
またご本人が予約をしてくださっていても、お亡くなりになった時、果たして本当に散骨をされるのか、というのも難しい部分です。
というのも、亡くなった後に散骨をされるかどうかは、ご本人の意向よりも身元引受人の意向に沿う形になってしまうからなんです。
ですから、そういった場合には、身元引受人の判断と了承を頂いたうえでご予約を承っています。
そうすれば、亡くなった際に身元引受人から当社へ散骨依頼のご連絡いただくことが可能になります。
では故人様が生前意思表示をされていたとしても、周囲の方とやりとりがきちんとできていないと、ご本人の希望がどんなに強くても叶えて差し上げられない場合もあるんですね。
菅村:おっしゃるとおりです。
例えば、永代供養をしてくれる納骨堂に入るとしましょう。
生前のご予約で、ここに入ると決まったらお名前をその場所に入れますよね。そうしてお亡くなりになった後に納骨堂へ連絡があり、実際に納骨されればそれば分かるようなシステムがあったりすると思います。
ですが散骨にはそこまでの文化やシステムがまだありません。
それに、散骨にはまだまだ賛否両論が付きまといますから、どうしてもその時になってみなければ予定通りに散骨が行われるかどうかは分からないんです。
確かに、散骨は様々な議論が生まれやすいものなのかもしれません。否定的なご意見の中には、どういったお考えが多いのでしょうか。
菅村:何よりも檀家制度ではないことですね。
普通ならお墓に入るでしょ、というのが基本的な考え方です。
日本で生まれて生活をしていれば、こうした考え方になるのが普通です。それに、他の家族がみんなお墓に眠っているのに一人だけ、ということに抵抗を感じる人もいるようです。
人間は最初に得た知識を正解だと思って過ごしているのは当然ですから、こんな形もありますよ、と後からお伝えしていく側である以上、この議論は続くと思います。
散骨は昔から日本に存在した供養の形ですが、時代とともにいわゆる「普通」ではなくなってしまいましたからね。
ありがとうございます。
当社で提供しているプランは3つあり、それが委託散骨、合同散骨、チャーターでの散骨です。基本的には委託散骨のご依頼をいただくことが多いです。その場合にはご遺骨をお預かりして、当社が責任をもって散骨をさせていただきます。
誰かに任せずに、自分たちの手で海に撒きたいということであれば、合同散骨をご提案します。このプランだと、一つの船に何組かのご家族が相乗りをして散骨を行うことになります。
もっと人数を増やして、10人くらいでお見送りをしたいとお話をいただけば、じゃあ船をチャーターして貸し切りにしましょう、というように散骨を希望される方の事情によってご提案させていただきます。
チャーターや合同散骨を希望される方が多いのかと思っていました。 そうした形がお葬式と一番親和性が高いのかな?と思っていたのですが、実際は違うんですね。
菅村:例えば、今週末の土曜、日曜の2日間で、船が4回出航する予定があります(インタビュー時は10月中旬)。 4便のうち2便はチャーターです。それから1便が東京での合同散骨と委託散骨で、最後の1便が横浜での合同散骨と委託散骨です。
更に内訳をみてみると、チャーターは2件ですが、合同散骨は5件、委託散骨は10件以上になります。
ですから、需要として一番ご依頼数が多いのは委託(代理)散骨なんですよ。
今後散骨という文化がもっと主流になってくれば、チャーターや合同散骨の件数が増えてくるのではないかな、と思っています。
今はまだ、お墓に入れられないから散骨をするという選択が多いので、今のように委託散骨が多いんです。文化が浸透していない証拠かもしれませんね。
では今後、新しい選択肢として浸透してくれば、船をチャーターしてご遺族みんなで散骨をしたり、船上でお見送りパーティーをしながら故人様を見送ろう、というのが一般的になるかもしれませんね。
菅村:私としてはそうなっていってほしいな、と願っています。
日本では人が亡くなったらお葬式をして、ほとんどの場合は火葬されます。それからお墓に入るわけですが、本来は亡くなった後にどうするかは、故人様やご遺族が決められることだと思うんです。
火葬した後お墓に入るという選択肢だけではなく、海洋散骨で海に帰ることができるという形も検討していただけたら当社としては嬉しいですね。
盛大なお葬式のように、故人様を偲んで船の上からご遺族みんなでお見送りをされるというのも、新しい葬儀の形として良いのではないかな、と思っています。
ありがとうございます。
株式会社マリンメモリー
取締役:菅村 佳実さん
株式会社 マリンメモリー 2020年 取締役に就任。
以来、「海に囲まれた日本の葬送スタイル、海洋散骨という文化を少しでも多く根付かせたい」という思いから、熱心に情報発信も行われている。
取締役:菅村 佳実さん
株式会社 マリンメモリー 2020年 取締役に就任。
以来、「海に囲まれた日本の葬送スタイル、海洋散骨という文化を少しでも多く根付かせたい」という思いから、熱心に情報発信も行われている。
葬儀の先祖返り!海洋散骨という供養を知る
本日はどうぞよろしくお願いいたします。今回はまだまだ馴染みの薄い「海洋散骨」について、お伺いできればと思います。さっそくですが、「海洋散骨」というのはいつ頃から存在したのでしょうか。菅村:実は海洋散骨は、日本において古くからおこなわれていた供養の形だったようで、平安時代には散骨が始まっていたそうです。元来はインドで始まったと言われていて、今でもガンジス川に亡くなった方のお遺灰やご遺体を流す風習が残っています。
ただ、そうして広まった散骨の文化も、江戸時代に入ってから大きく状況が変わりました。当時、檀家制度が強化され、お寺にお墓を作るようになったためです。
そうした状況もあって、日本人にとっては散骨という供養の方法が縁遠くなってしまったと考えられています。
ある意味で先祖返りといいますか、原点回帰している供養の方法なんですね。
檀家制度が広がったのは、キリシタンを排除するためというのは日本史の教科書に載っていましたね。
菅村:そうですね。
そういった思惑から、お墓を作らなきゃいけない、日本での供養は火葬してからお墓に眠ってもらわなければならないという流れにのまれて、散骨が廃れてしまいました。
ところが、また時代が変わってきて「檀家制度って何なの?」という疑問が現代の皆さんには広がりつつあり、 そういった時代の流れもあって、今また散骨が注目されてきているようです。
海洋散骨に限らず、様式に縛られないお別れが増えているのも、そういった流れの一つではないでしょうか。
ありがとうございます、とても勉強になりました。
菅村様自身もご家族のお墓をどうするか悩まれていたそう。日本人のライフスタイルの変化や家族のあり方が変わる今だからこそ、必要なサービスが海洋散骨だと思ったのだとか。
では続いて、葬儀業界に参入をされたきっかけを教えていただけますか。菅村:私自身が、お墓に関する悩みを抱えていたことが大きなきっかけですね。
今後両親が眠るお墓を守っていかなきゃいけないですが、自分はどこに入るのか?と考えることがよくありました。
お墓は維持費もかかりますし、今後誰に管理をお願いするかということも問題だったんです。
色々と考えたり相談した結果、我が家ではお墓を今後維持し続けるのは難しいという結論に至りました。そこでお墓以外の供養の仕方を色々と調べていくうちに、海洋散骨という供養を知りました。
それまで私は、結婚式のお仕事を長く行っていました。
これから結婚をする方も、人生の終わりを迎えようとしている方も、それぞれ人生においてハイライトがあるわけです。そうした人生の大きな出来事に対して、私にできることは何か?という思考がもともと根底にあったため、「海洋散骨」も事業としてスタートさせることになりました。
結婚式ではひとつひとつの瞬間を大切にする事が重要です。そうしたサービスを提供してきたノウハウを、海洋散骨を行う際にどのように活かしていくのか、という事を考えるようにしています。
人生のハイライトという意味では、結婚式も葬儀も同じかもしれませんが、異なるところも多いですよね。事業を立ち上げる中で苦労されたこと、印象に残っていることなどはありますか?
菅村:一口に海洋散骨を始めるといっても、それまで葬祭関係の業界については全く知識がなかったので、本当にゼロからのスタートになりました。 葬儀についてのルールを学ぶところから始めなければならなかったことは本当に大変でした。
それからもう一つ、海洋散骨ですから海のルールを理解しなければ、このお仕事に携わることはできません。ですから、この二つを勉強するところからスタートしました。
そこでまず、散骨することを、公的機関が合法と認めているわけではないということを知りました。
海洋散骨をとりまく環境と、これから目指す場所とは?
そうなんですか!てっきり認められているものだと思っていました。菅村:そうなんです。
合法ですと言われたわけではありませんが、違法というわけでもありません。
これを理解したことで、先々、海洋散骨が違法になってしまわないように対策が必要だと考えました。
ですから、周囲の方々に迷惑をかけない、不快な思いをさせない、そして安全であること。そういったことをすべてクリアしたうえで、故人やご遺族の方々に満足していただける散骨を実現するためのルールが必要だと感じていました。
そのような中で全国海洋散骨船協会が、海洋散骨に関するガイドラインを作っていることを知りました。協会の掲げる理念や考えに共感できる部分が非常に多かったので、私達も協会の一員として加入させて頂いた次第です。
国が定めたものではありませんが、ガイドラインから外れたことをして「散骨は違法です」と国から言われることがないようにしましょう、というのが協会の設立目的でしたから、私の考えていた必要なガイドラインと合致したんです。
そうなんですね。ガイドラインにはどういった内容が盛り込まれているのでしょうか。
菅村:例えば海に撒くご遺骨は、必ず粉骨をしなくてはなりません。大きさも決まっていて、2ミリ以下で、しっかりパウダー状にする必要があります。
また、散骨を行う際に、ご遺骨だけで海へ流そうとすると、風が吹いたときにどこかへ飛んで行ってしまいます。ですから紙に包んで流しますが、その時に使用するのは水溶性の用紙でなければなりません。
これが散骨の際に使用している水溶性の紙です。
こちらには故人様に向けてお手紙を書いていただくこともできます。
海でお仕事をするわけですから、海へ迷惑をかけないようにすることも大切にしています。
水溶性の紙を実際に水に入れてみると、簡単に破れてあっというまに溶けてしまう。濡れる前は簡単に溶けるとは思えない手触りで驚きです。
独特な手触りですね!想像よりもツルツルしていて分厚い紙です。
水溶性と聞いていたので簡単に破れてしまうものかと思いましたが、とてもしっかりしていて、簡単には破けない安心感もあります。
そうなんです。 ただ、このとおり水であっという間に溶けてしまいますから、雨の日の散骨は大変です。手元で紙が溶けてしまわないように、しっかり守ってから散骨しています。 あとは、散骨する場所についてもある程度ルールがあります。
陸から船が見えて「あ、散骨しているな」ということが分からない距離まで移動しないといけません。
また、散骨の最後に鐘を鳴らしたりすることがあります。その音が陸まで聞こえてしまうと「お葬式やってるのかな?」と思われてしまう可能性がありますよね。
それからこれも当たり前のことですが、海水浴場や養殖場など漁業が盛んな場所を避ける必要があります。 ですから、しっかり沖の方へ出て散骨をすることも、実は大切なルールなんです。
そして、これまで協会として順守してきたことが、令和3年3月厚生労働省もガイドラインを発表され、現在の海洋散骨に至る運びとなりました。
ありがとうございます。とても勉強になりました。散骨事業を立ち上げるうえで印象に残っているエピソードはありますか?
菅村:エピソードではありませんが、リピーターやご友人からの口コミからご利用いただく方がおられることが驚きでした。
というのも、これまで主に行っていた結婚式を提供するサービスでは、リピーターやご友人からの口コミからのご利用というのはあり得なかったからです。
たしかに!結婚式の場合、ご友人と同じ会場を使用して挙式をすることは避けますね。
菅村:そうなんです。
ですから、ご友人やご親戚が利用されて、とってもよかったと伺ったのでお願いしようと思います、というご連絡をいただいたときはとても嬉しかったですね。
現状は葬儀会社さんからお通夜などが終わった後ご紹介をいただいて、それから予約をしてくださる方が多いです。ですがこうした口コミやリピーターの方も大切にしていきたいと思っています。
まだまだこれから!海洋散骨の魅力とは?
改めてですが、海洋散骨サービスの魅力や強みについて教えていただけますか。菅村:現在は、お墓に故人様を入れるというのが主流ですが、私のように代々お墓を管理していくことが難しいという方も増加傾向にあります。
そんな昨今、お墓を持たなくても故人様を供養できるのが散骨だと思うんです。
ですから、今後時代の流れも含め、散骨される方が増えていくのではないかと考えています。
お墓を建てるとなると、墓地や墓石の購入費だけでなく、維持管理費が発生します。ですから、散骨とお墓ではかかるコストに雲泥の差があります。
こうした長期的なコストがかからないという点も散骨の魅力だと思います。
また宗教や形式に関係なく供養ができるというのも、大きなポイントだと感じます。
それから散骨が今注目されている理由の一つに、お子様がいらっしゃらない方や、独身の方が増えているということもあるのではないかと感じます。 例えば「独身だったおじさんが散骨を希望されていた」という理由でお問い合わせをいただくこともあります。
なるほど。今、独身の方からもご依頼があるとおっしゃっていましたが、そのように生前から故人様本人が希望される場合が多いのでしょうか。それともご家族の希望が多いのでしょうか。
菅村:実は生前のご予約は本当にたくさん頂戴するんですよ。その場合、約9割はご本人の希望です。海がお好きであるとか、もともとご自身の散骨を強く希望されている場合がほとんどです。
そのような場合、先ほどお話ししたように、その方にはお子様がいらっしゃらず、お墓に入る予定もないというケースで、終活の一環としてご予約を頂くことが一番多いですね。
確かに独身の方が、ご自身の終活の一環で来られるというのは想像できます。
菅村:そうなんです。ところがご予約を頂いたとしても、その方が亡くなられた時に、誰が亡くなったことを当社に連絡をしてくれるのか?ということも問題になります。
またご本人が予約をしてくださっていても、お亡くなりになった時、果たして本当に散骨をされるのか、というのも難しい部分です。
というのも、亡くなった後に散骨をされるかどうかは、ご本人の意向よりも身元引受人の意向に沿う形になってしまうからなんです。
ですから、そういった場合には、身元引受人の判断と了承を頂いたうえでご予約を承っています。
そうすれば、亡くなった際に身元引受人から当社へ散骨依頼のご連絡いただくことが可能になります。
では故人様が生前意思表示をされていたとしても、周囲の方とやりとりがきちんとできていないと、ご本人の希望がどんなに強くても叶えて差し上げられない場合もあるんですね。
菅村:おっしゃるとおりです。
例えば、永代供養をしてくれる納骨堂に入るとしましょう。
生前のご予約で、ここに入ると決まったらお名前をその場所に入れますよね。そうしてお亡くなりになった後に納骨堂へ連絡があり、実際に納骨されればそれば分かるようなシステムがあったりすると思います。
ですが散骨にはそこまでの文化やシステムがまだありません。
それに、散骨にはまだまだ賛否両論が付きまといますから、どうしてもその時になってみなければ予定通りに散骨が行われるかどうかは分からないんです。
確かに、散骨は様々な議論が生まれやすいものなのかもしれません。否定的なご意見の中には、どういったお考えが多いのでしょうか。
菅村:何よりも檀家制度ではないことですね。
普通ならお墓に入るでしょ、というのが基本的な考え方です。
日本で生まれて生活をしていれば、こうした考え方になるのが普通です。それに、他の家族がみんなお墓に眠っているのに一人だけ、ということに抵抗を感じる人もいるようです。
人間は最初に得た知識を正解だと思って過ごしているのは当然ですから、こんな形もありますよ、と後からお伝えしていく側である以上、この議論は続くと思います。
散骨は昔から日本に存在した供養の形ですが、時代とともにいわゆる「普通」ではなくなってしまいましたからね。
ありがとうございます。
実は委託が主流!今の海洋散骨サービスとは
海洋散骨は船を貸し切って行うイメージがありましたが、お客様のご要望に対応するため、多様な形式があるようです。(イメージ写真です)
御社では散骨を行うにあたり、様々なプランをご用意されていますよね。どういったプランが人気なのでしょうか。当社で提供しているプランは3つあり、それが委託散骨、合同散骨、チャーターでの散骨です。基本的には委託散骨のご依頼をいただくことが多いです。その場合にはご遺骨をお預かりして、当社が責任をもって散骨をさせていただきます。
誰かに任せずに、自分たちの手で海に撒きたいということであれば、合同散骨をご提案します。このプランだと、一つの船に何組かのご家族が相乗りをして散骨を行うことになります。
もっと人数を増やして、10人くらいでお見送りをしたいとお話をいただけば、じゃあ船をチャーターして貸し切りにしましょう、というように散骨を希望される方の事情によってご提案させていただきます。
チャーターや合同散骨を希望される方が多いのかと思っていました。 そうした形がお葬式と一番親和性が高いのかな?と思っていたのですが、実際は違うんですね。
菅村:例えば、今週末の土曜、日曜の2日間で、船が4回出航する予定があります(インタビュー時は10月中旬)。 4便のうち2便はチャーターです。それから1便が東京での合同散骨と委託散骨で、最後の1便が横浜での合同散骨と委託散骨です。
更に内訳をみてみると、チャーターは2件ですが、合同散骨は5件、委託散骨は10件以上になります。
ですから、需要として一番ご依頼数が多いのは委託(代理)散骨なんですよ。
今後散骨という文化がもっと主流になってくれば、チャーターや合同散骨の件数が増えてくるのではないかな、と思っています。
今はまだ、お墓に入れられないから散骨をするという選択が多いので、今のように委託散骨が多いんです。文化が浸透していない証拠かもしれませんね。
では今後、新しい選択肢として浸透してくれば、船をチャーターしてご遺族みんなで散骨をしたり、船上でお見送りパーティーをしながら故人様を見送ろう、というのが一般的になるかもしれませんね。
菅村:私としてはそうなっていってほしいな、と願っています。
日本では人が亡くなったらお葬式をして、ほとんどの場合は火葬されます。それからお墓に入るわけですが、本来は亡くなった後にどうするかは、故人様やご遺族が決められることだと思うんです。
火葬した後お墓に入るという選択肢だけではなく、海洋散骨で海に帰ることができるという形も検討していただけたら当社としては嬉しいですね。
盛大なお葬式のように、故人様を偲んで船の上からご遺族みんなでお見送りをされるというのも、新しい葬儀の形として良いのではないかな、と思っています。
ありがとうございます。